ヒロさん宅のジャックさんと我が子風葵のコラボカプ
流血シリアス病み注意






「結局お前もそうなんだろ…っ、誰でもいいんだろ、なぁ!?」


叩き付けるような怒号が降り注ぐ雨を切り裂いて、悲痛な余韻を保ったまま、夜の闇に響く。激しく降り注ぐ雨に打たれて、視界が煙り、近しい位置にある彼の顔しか見えない。
彼が振り被ったナイフが、ぐちゅりと嫌な音を立てて、肩へと深く沈んだ。引き攣った声が喉奥から溢れ出す。
彼は男で、自分は女で、そこに当たり前に存在する力の差には、当然ながら覆し難い。胸倉を掴まれて、壁に叩き付けられて、挙句にナイフを突きたてられていたら、猶更だ。

それに。
自分は、ほんの少しも、逃げようなんて思ってないのだから。

霞む視界の中、見える歪に歪められた口角と、赤い血潮にも似た瞳と、その瞳から溢れ、雨と混じって頬を伝う涙。
泣いてるのか、笑っているのか、どちらでもなくて、どちらでもある、泣き笑いの顔。
激情に任せただけの荒い手付きに肺が圧迫されて、同時に肩の傷が激しい激痛を伴って、思い切り咽込んだ。けれど、視線は、外さない。ずっと、彼の瞳を見詰める。視線を逸らしては、いけない気がしたのだ。
抵抗の一つもせず、されるままにされながらも、きっと強く見詰めて、雨音に掻き消されないように声を上げる。


「っ、馬、鹿に…しないで、ちょうだい。そんな軽い愛を囁いてるほど、あたし、暇じゃ、ない…のよ、…勝手に暇人にしないで」
「嘘、つくな…っ、」
「…嘘?ふざけないで、人を暇人にした後は、嘘吐き呼ばわり?ナイフ、ぶっ刺されてまで、っ、嘘つくメリット…ないでしょうが…ッ!!」


喉奥から、声を張り上げる。
どうしてこんなにも、好きと伝えるのが難しいのだろう。何と言えばいい?何をすれば、彼は怯えずに、信用してくれる?
荒い呼吸をしながら、もはや睨むかのように強い視線を向けていれば、不意、彼の力が弱まった。
今までと違い、笑みが消えて、某としたような色合いへと変わる。次に漏れた彼の声は、雨音に掻き消されそうなほどに、細く凍えていた。



「…じゃあ、…裏切らないか?」
「っ、けほ…う、らぎらない…なんて、約束、出来ない、わ……何が、貴方にとっての、うら、ぎ…り、か……あたし…わからない、もの…」




「…っ、でも…これだけ、は、言える…から……あたし、………その人のために、人生賭ける、覚悟がないなら……すきだなんて、ぜったい、いわないわ…」


そんなの、ぜったい、言わないわ。
そんな、ちんけな愛なんて、ぜったい、口にしないわ。
裏切りたくないから、裏切らないなんて、約束しないわ。
言うこと聞くだけのお人形なんて、いらないでしょう。
そんなの絶対、虚しいだけでしょう。


馬鹿ね、本当、貴方は馬鹿ね。
怯えて泣いて拒絶して、子供みたいね。
でも、そんな貴方だから好きになったのよ、って、いつかちゃんと解ってね。いつかちゃんと、あたしの声を聞いてね。
受け入れてくれなくていいから、お願いだから、受け止めてね。

視界が赤く染まって、意識が遠くなる。
迷子の子供みたいな、捨てられた子犬みたいな顔をして、ぼろぼろと涙を流す彼の頬を血塗れの手の平で撫でて、出来る限り柔らかく微笑んだ。


「――――だぁい、すき、よ」


好きよ。
刺されたって、たとえ殺されたって。
ずっとずっと、大好き、よ。
貴方になら、あたしの人生、あげたっていいのよ。

視界が暗く染まる寸前、彼が痛そうに表情を歪めたのが見えた。
…少しでも、伝わっていたら、いいな。







哀し愛、愛し哀、愛し合い、哀し合い、遭いし哀、アイシアイ。