きあらさん宅のスズちゃん×我が子刹那のコラボカプです
どう見てもカップルでどう見ても両想いなのに本人達は恋心にすら気付かずいちゃこらするだけの話







「せっちゃーん」
「なぁにィ、スズちゃーん」


すっかり恒例となりかけた二人組が目の前できゃいきゃいと話すのを見て、山月小虎は手元のジュースをなるべくゆっくりと啜った。
恒例の二人、クラスメイトの成原鈴之助、それから少しいったところにある水無月高校の遠野刹那。
二人は端から見れば、どう見ても超絶美少年と超絶美少女のカップルである。そう、見た目だけは。
この認識には実は二点の誤りがあるのだった。

まず、一つ目。この二人は付き合っていない。
嘘だと誰もが口を揃えて言うが、残念ながら事実なのだ。親しげに呼び合って、ふざけて抱き合って、頬にキスして、同じペットボトルを回し飲みして、一つのご飯を半分こして、挙句あーんで食べさせ合って、それなのに付き合ってないのだ。
それどころか、甘さも照れも皆無な表情で「はぁ?付き合ってる?誰と誰が?」なんてのたまう始末。

そのくせスズが誰かと楽しそうに話していれば刹那はその整った顔を僅かに歪ませて、笑顔を消して見ているし、逆に刹那が誰かと楽しげに話せば、スズが同じ反応をする。
付き合ってないのはこの際いい。だが、お前ら確実に、どう見ても両思いだろと、それだけは突っ込みたくて仕方ない。
無論、過去に何度も突っ込んだが、これもまた普通に否定されてしまった。
つまり、双方、気付いていない。自分の気持ちに。
何てもどかしいんだと、小虎とショウは全力で脱力した。
いや、もう、もどかしさも最近は通り越している。そろそろ悟りとかが開けそうだ。その証拠にショウの表情は、まるで天界から人々を見下ろす大仏のようになっている。
そんなショウを見ながら、今ならどうして観音の手が千本もあるのかの謎が解ける気がするとか思い始めている小虎は、自分も似たような慈愛に満ちた表情をしているのに気付いていない。


そして、二つ目の間違いだが。
これこそ本当に、きっと誰もが飛び上がって驚く間違いだと小虎は思う。
二人を見たとき、誰もが思うだろうこと。

かっこいい彼氏、刹那と、かわいい彼女、スズ。

…実はそれは、逆だ。
かっこいい彼女、刹那と、かわいい彼氏、スズ、なのである。
何を隠そう、初めに知ったとき盛大に驚いたのは小虎とショウだ。スズの方は幼馴染であるためもちろん知っていたが、刹那が女だなんてびっくり仰天で済まない。
「内緒だぜ?」なんて悪戯っぽく瞳を細め、唇に人差し指を当てた刹那は、真実を知っても、やっぱり少年にしか見えなかった。


そんなこんなで、盛大に周囲を賑わす男女逆転カップル(未満)は、今日も絶好調でいちゃついている。


「そういえばぁ、駅前のカフェで今日、カップル割引ってのがあるらしいんだけどぉー…」
「スズちゃん何時終わりィ?」
「四時半には終わるよぉ〜」
「んじゃぁ校門な!」
「はいはーい」


そうか、行くのが前提か。迎えが前提か。そして、カップル前提か。
二、三の言葉を飛ばして繋がる二人の会話に、そして、そんな話をしながらも一つのジュースを飲み合う様に、多分自分たちが浮かべている表情は一緒なんだろうな、と、小虎とショウは空になったジュースの缶を、目一杯力を篭めて屑籠へと叩き込んだ。



もうお前らさっさと付き合ってしまえ!!!