すみませんでした。
……すみませんでした(二回目)。







「御先代様ぁああああ!!」
「えっ、なに、」


だぁん!!と、まるで陸上選手の様な美しいフォームで屋敷を駆け抜けてきたジルダが、これまた美しく階段を駆け下りて、そして驚愕して振り返るカインの近くへと十点満点で着地した。
舞台帰りのそのままなのか、彼女の衣装は、まるでジルダの為だけに作られたかのように魅力を高める高級な素材をふんだんに使ったもので。見るものを否応が無しに魅了するものだが、残念ながらあまりカインに効果はなかった。普段なら似合っているよ、の言葉程度は当たり前にかけるが、なにぶん今は突然の珍行に対する驚きの方が勝っている。そして、その素晴らしい衣装は男物であった。いや、似合う。素晴らしく似合うのだが、彼女は女性だ。
女性の姿の方がうつくしいね、というカインの一言により、屋敷に帰ってきた際のジルダは主に女性の姿で過ごしていたのだが、今日ばかりは何故か男物である。


え、なに、どうしたの、と。
カインが言葉言葉を言い終わらぬうちに、ジルダがその長い脚をばねにしてすくっと立ち上がる。そして。


「失礼致します!!!」
「えっ…?」


膝かっくんを、した。
あまりに美しく、流れるような動きで。突然のことで防ぎきれず、がくりと身体の傾くカインの身体を屈むことで流麗に避け、そして白魚の指先を床に付き、身体を低くして、そして、続いて彼の足を蹴りで薙ぎ払う。

あっと言う間の出来事だった。

完全にバランスを失い、床と平行に落下しようとするカインの身体を、さっと抱きとめて。




「………、」
「…御先代様、どうか御休み下さい。ご自愛されませんと、身体を壊されます。」

「……突っ込むべきかありがとうと言うか危ないと叱るか、私はどうするべきなんだろうね」





頭を撫でられ、若干ときめいたかもしれない心臓の動きは、しかし驚嘆に激しく脈打つ勢いによって、残念ながら掻き消されていた。