中学時代の二人に恋愛フラグ
つまり完全BLです
二人の関係は親友で肉体関係有り







「おい、ちょっと待てよ」
「ん?なに」

ふらりと街中を歩いていると、見知らぬ男達に囲まれる。
相手はこちらを知っているようだったが、あいにくと僕は彼らに面識も何もなかった。
まぁでも、全員殺気だった表情をしているから、大方僕の自業自得なのだろう。心当たりは皆無だが。

ちょっと話があるというから着いていったが、この雰囲気で平和的なお話し合いが始まるわけがないのは百も承知だった。
それでも、僕はただ笑って着いていく。
彼らは気味が悪そうに、時折こちらを振り返った。


「この野郎…ちょっと顔がいいからって、無遠慮に俺の女を奪いやがって…!」
「はぁ…何のこと?生憎、そんな心当たりはないんだけど…」
「ユリカだよ!一週間前、テメェが寝た女だ!」
「ユリカ、ユリカね………あぁ!あの子か」

記憶を漁って、ようやく男の言う"ユリカ"とやらを思い出す。
そういえば、そんな子を抱いた気がしなくもない。あくまで、その程度だったが。
記憶も朧げだ。髪の長い、茶髪の女の子だったような気がする。

「で、そのユリカちゃんが何?」
「しらばっくれんな!テメェ、俺が誰か知ってんのか…!」
「さぁ?何、有名なの?」
「…俺はな、ここらの元締めだっつの」
「へぇ…」

元締め、元締めね。
ふふ、おかしいなぁ…どう見てもまだ学生の彼から放たれた言葉に、滑稽を通り越して哀れみすら覚えそうな科白だった。
つまり、不良のボスだとでも言いたいんだろう。
ヤクザとでも関係があるのか、彼はいやに強気な態度で僕に迫る。


「だからよぉ、そんな俺の女に手を出したんだ。お礼参りはきっちりさせてもらうぜ」
「お礼参り?なぁに、何かくれるの?」
「…ああ、くれてやるぜ。その綺麗な顔に、たっぷりと傷……と言いたいところだが、テメェの顔は傷つけるには惜しいくらいだな。だから、身体で払えよ」



ああ、もう。本当。
これだから面白い。


「身体?…こういうこと?」

にやりと口元を歪ませて、男の胸元にするりと入り込む。そして彼の頬をゆっくりとなで上げたが、その手は誰かに掴まれて、思い切り引き寄せられ。


「…!?」
「…んだぁ、テメェ」

「悪いな、コイツは俺のなんだ」
「シド…!?」


僕を抱き寄せた反動で目の前の男を蹴り飛ばし、そして残りの数人も簡単に殴り飛ばしてしまった。見慣れた銀髪が視界を掠めた。
そして、飄々とした態度で煙草を咥える。



「ほら、行くぞ」
「あぁ…うん」

あっさりと男達をのしてしまったシドにくすりと笑いかけ、歩き出す彼の背を追った。
陰鬱な空気の漂う路地裏でも、彼と共にいれば心地よいとさえ思えてしまう。



「…ね、シド」
「なんだ」
「もしかしてさ、嫉妬した?」

これは何の感情だろうか。いつもの怜悧な横顔を見つめていたら、不意に彼をからかってみたくなったのだった。
くすくすと笑って、シドの顔を覗き込む。
綺麗なアメジストの瞳は、いつものことならが微塵も動揺が見られない。
そんな目が嫌いではなかった。


「嫉妬…?」
「そ、嫉妬。妬いてた?」

ほんの冗談のつもりだった。助けてくれたのはわかっているが、あの状況で「こいつは俺の」だなんて言われたことがなかったから。
本当に、単純に、言ってみただけだった。けれど帰ってきた答えは、



「……あぁ、嫉妬してたよ」
「え…?」
「お前が軽々しくあの男に触れてたから、嫉妬した。悪いか」


あまりにも当たり前に言われたから、呆然とした。
何?え?
俺を見つめるシドの目はいつもと同じ色で、それはつまり、今のが嘘偽りや冗談でないのだと雄弁に物語る。


「それ、は……友人として?」
「違う」
「それじゃあ…恋愛感情、として?」

どくどくと心臓が脈打つ。
何だこれ、今までどんな可愛い子に告白されても、こんなになったことはないのに。
呆気に取られてシドを見つめていると、彼の白い腕が俺に伸ばされて、そっと抱き寄せらる。


「…俺はお前が好きだ」
「シド…」
「傍にいてやるよ。友人にも、恋人にも、保護者にも、何にだってなってやる。お前の望む関係をやる。だから……どこにも行くな」

どこにも、行くな。
俺の手の届かないところなんかに、行くな。


耳元に吹き込まれる熱の篭もった吐息と言葉に、頬が熱くなる。なんだこれ、こんなの初めてだ。
セックスの時だってこんなに心拍数が上がったりしない、それなのに、今は。



「…シ、ド……ちょ、見るな…」

擦れた声が零れだす。
絶対に赤くなっているだろう顔を見せたくなんかなくて、口元を押さえる。

好き。好きだと言われた、シドに。大好きな親友に。
いや、元々身体の関係はあったから男同士ということに嫌悪などは沸かないが、意外だったのと驚きで頭がぐちゃぐちゃになる。
でも、そうか。シドが、俺を。
その事実をようやく理解して、自然、言葉が零れた。コレがきっと俺の本心だったのだろう。


「…俺も、好きだよ」


何だか悔しかったから、言うと同時に壁に押し付けて唇を奪ってやった。性急に絡ませあう舌はどう控えめに見ても想いが通じ合ったすぐの健全なものではなくて。
つまるところ俺達にはこれが一番相応しいのだろう。

背中に回した腕が服にかかった。