ヒロさん宅のローザちゃんがヤンデレ
アルベルトさん死亡ネタです注意!






リズ君はね、とってもかっこよくて、たまに可愛くて、口は悪いけど、何だかんだで優しくて、とっても素敵な人なんだ。
あのね、えへへ。


だいすきだよ、リズ君。





「―――――誰だ、お前」


あれ。
あれあれあれ。何で。リズ君、何で?何でそんな顔してるの?
わたしだよ、ローザだよ、やだなあリズ君、どうしたの?寝ぼけてるの?
それとも……忘れちゃったの?


「リズ君、私だよ、ローザだよ。どうしたのリズ君、あはは、変な顔。お化けでも見たみたいだよ?」
「リズ…?は?誰だ、そいつは。そもそも、誰だ、お前」





突然現れて、意味の解らないことを口走る黒髪の女に、アルベルトは軽く目を見開いてただ見詰める。
何だ、こいつ。親しげに、旧知の仲のように話しかけてくるが、アルベルト自身は彼女、ローザに見覚えなどない。
それどころか、呼び名さえも違うのだ。"アルベルト"ではなく、先程から"リズ"という名前で呼びかけてくる。
ローザは始終笑顔だ、顔立ちも笑顔も可愛らしいものだが、何だ、これは。
得体の知れない薄気味悪さを感じる。気味が悪い。
ありえないものを見たかのような、そんな恐怖に似た嫌悪感が、アルベルトの背筋を伝った。

無意識に一歩後ずさっていた自分に気付けば、はっとして自我を取り戻す。
未だ「リズ君リズ君」と訳の解らない言葉を繰り返しているローザを一瞥すれば、咥内に溜まっていた唾液を飲み込み、踵を返す。
直感的に解る。この女は、言葉が通じる相手ではない。ならば、関わるだけ、話すだけ時間の無駄だ。



「あのね、あのね、リズ君、それでね」


未だ話し続けるローザを無視して、アルベルトは歩き出す。
それを見たローザが、慌ててアルベルトの腕を掴んで引きとめようとする。だが、アルベルトはそれを勢いよく振り払った。
え、と、ローザは瞳を見開く。
何で、何で、リズ君?どうして?
何なんだお前近付くなと、氷のように冷たく鋭利な声で吐き捨てるアルベルトの言葉も、耳に入ってすらいない。

どうして、嫌だ、嫌だよリズ君。
止めて、私の知らないところにいかないで。
行かないで、私の傍から離れないで。

いかないで。
いやだ。
だめ。
だめ。
りずくん。
おねがい。


わたしだけのものでいて。








鮮血が、舞った。

相手が非力に見える女の子であり、うんざりとしていたアルベルトは、今現在ローザが起こした狂気の沙汰を、未だに理解できずにいる。
は…?と、唇の端から赤い雫を落として、ゆっくりと振り返る。


「あは、…ははは……あははははははは!!!!!!」


ローザは笑っていた。
愉しそうに、悲しそうに、切なそうに、辛そうに、しあわせそうに、哂っていた。
アルベルトの背、ちょうど心臓部に突き立てたナイフを握り締め、シャワーの如く溢れ出すいのちの雫を全身に浴びて。
重力に従い、ぐらりと傾く身体を支え切れず、共に地面へと崩れ落ちる。
アルベルトが最期に見た光景は、心底嬉しそうに笑う、歪に歪んだ女の顔だった。





「…えへへ、リズ君。これで、ずっと、一緒だよ?」

血塗れのナイフ、血塗れの身体、血塗れの世界、血塗れのこころ。
ナイフを背中から抜けば、それを傍に置き、ようやく触れ合えた逞しい身体にしっかりとしがみ付く。
ぎゅうっと腕の力を強めて抱き締めれば、優しい香りが、血潮に混じって漂っていた。
しあわせそうに頬を緩めて擦り寄れば、瞼の裏に、あの日のリズの笑顔が浮かんでいた。




「リズ君、だぁーいすき」


ずっと、いっしょ。
しあわせ、だなぁ。