エイプリルフールネタ
もしも凛架さんが死なずに両家の確執も無かったなら
恭真と凛架とシド、それから紫苑と刹那が仲良し家族してる






「ほら朝よ起きなさーい起きないとちゅーす「おはよう母さん!!」…ちっ、ディープキスかましてあげようと思ったのに」
「仮にも実の娘にそれはないんじゃないかなぁ!!?」
「いいのよ、息子だから」
「俺付いてないんですが!?」
「そんな格好で言っても説得力無いわよ、ほらさっさと着替えて朝ごはん食べる、紫苑はもう食べてるわよー」


あい、と、力なく返事をした刹那が、がしがしと頭を掻き、欠伸をしながら布団から起き上がる。
短い銀髪に、女子にしては高い身長。肩幅も広く、筋肉の付いた身体に、男物の灰色の着流しを羽織っている。残念なほどに胸もないことも加えて、どこからどう見ても完全に男のようだったが、彼女は女だった。
数歩歩き、朝から完璧にメイクし、二児の母であるというのに際どく魅力的な服に身を包んだ女性へと、頬にキスを送る。


「おはよう、母さん」
「はい、おはよう。顔洗いにいくついでに、恭真とシドを起こしてきて」
「え、父さんも親父もまだ寝てんの」


遠野刹那には、父親が二人いた。
それには様々な事情が絡み合っているのだが、まあ、とりあえず泥沼な事情ではないのでよしとしよう。
まずは、親父と呼んだ父親の方。此方は血の繋がった、実の父である。名を、シードラ=インフェルノ。イタリア人であり、彼女の銀髪は彼からの遺伝だった。
そして、次は父さんと呼んだ方。此方とは直接の血の繋がりは無く、双子の弟である紫苑の父親だ。冷泉恭真といい、純日本人である。

そうして、最後に刹那と紫苑の母親。先程キスをかます宣言をした年齢不詳の美女である、遠野凛架。彼女はイタリアと日本のハーフで、戸籍上は恭真と婚姻を結んでいる。
恋愛関係も凛架と恭真にしかないのだが、ただ、色々とあり、結果的に刹那というイレギュラーが生まれてしまった。
その件は既に解決しているのでここでは詳細を語らないが、結局、二人とも父親と呼ぶことに決めたことだけは述べておこう。

イタリア風の挨拶もした後、羽織りを肩にかけながら、刹那は部屋から出て行く。目指すのは、少し離れた場所にある、父の部屋だ。
最初に訪れたのはシードラの部屋で、先に声を掛けてから襖を開く。


「親父ー…って、完璧に熟睡してるし」


艶やかな、銀髪。外人特有の白い肌が、刹那と揃いの灰の着流しの合間から除いていて、妙に色気がある。これで子持ちだもんなぁ、と、苦笑しながら、刹那はシードラの肩を揺すった。


「起きろー、母さんがディープキスかましに来るぞー」
「……、ン、ん…それは…ごめん、だ…」


寝ぼけているのか、流暢なイタリア語が、薄く色付いた形のよい唇から零れ出す。それに笑って、さらりと髪を払った。じゃあ起きねえと、と、笑声交じりに吐き出せば、のそりと彼が動く。がしがしと頭を掻き、欠伸をしながら布団から起き上がる。親子揃って同じ動きをしていることには、双方気付いていない。
ここまで起きれば大丈夫だな、と、刹那は次の部屋へと歩いていく。

同じ様に、声をかけてから襖を開けた。
柔く美しい黒髪に、雪のように白い肌。無駄に整った造形。やはり子持ちとは思えぬほどの艶めいた姿で眠るもう一人の父に苦笑しつつ、また肩を揺すった。そして同じ台詞を吐く。


「起きろー、母さんがディープキスかましに来るぞー」
「ん、ぅ……りんかが…?こわ…おきないと…」


格別に寝起きの悪い父さんだが、これを言えばとりあえずは起きる。後のバリエーションは、母さんが拳銃持って乱入してくるぞ、とか、母さんがチャイナ服で虎連れてくるぞとか、そんな感じ。オール母さんネタだ。どんだけ母さん怖いんだよ。俺も怖いけど。だって我が家の絶対権力者だ、あの紫苑でさえ母さんの言うことはよく聞く。
起き上がった父さんがぼんやり虚空を眺めつつ、ふらふらしながら起き上がる。そのまま帯を解いて着替え始めたので、もう大丈夫だろうと部屋を出た。
ちなみに父さんと紫苑の寝起きはそっくりだったりする。

顔を洗って、リビングというか、広い部屋へ。うちは豪勢な純和風の家だ。
並べられた食事を食べて居る紫苑の隣に座り、いただきますと手を合わせる。ちなみに料理は専属シェフの力作であって、決して母さん作じゃない。
あの人曰く、「え、料理なんてしたら指が荒れるじゃない」だそうだ。どこまでも女王様気質で、加えて父さんが甘やかすからいけない。なんて、そんなこと言える猛者はこの家にはいない。



今日も今日とて、母さんを中心に、我が家は回っている。
だけど俺は、この家が好きだった。










これは、決してありえなかった、パラレルワールドにもならない、ちいさな夢のおはなし。