この学校の生徒会には、とにかく仕事が多い。生徒達から寄せられる相談事から、学校の設備に関する書類まで、何から何まで回ってくるのだ。
そのため、生徒会長である紫苑は実に多忙を極めている。朝は誰よりも早く登校し、忙しい時期には先生より遅く帰ることも珍しくない。
そんな紫苑だが、実は周りが思うほど書類に追われたりはしていなかった。
そこには、書類が溜まると最早紫苑の下僕と化しているあみを生徒会室に引きずってきて書類をやらせているというなんとも可哀想な事情があったのだが…。


「ほらさっさと片付けなよ」
「だから!何で毎回あたしが手伝わされてんの!?こんの横暴生徒会長!」
「…踏んで欲しいみたいだね」
「いたたたたた!!ごめんなさい黙ってやります!」


今日、海外ロケを終えて久々に登校してきたあみはとてもいい笑顔で待ち構えていた紫苑にずるずると引きずられ、生徒会室に軟禁された。
学生とモデルの併行という事情を汲んで校長にかけあってやった自分に恩返しの一つもないのかと強制連行したのが始まりだったそれは、最近では最早恒例行事となっている。
あみが必死に書類の山を片付ける傍では、紫苑が悠々と紅茶を飲んでいる。
文句の一つでも言ってやりたいのが本音だが、残念なことにこの二人の間にある力関係は既に確固たるものとして完成されていて、あみは泣く泣く書類を終わらせるしかここから帰る術はなくなっていた。


「せ、先輩…終わりましたよ…」
「お疲れ。じゃ、次はこっちね」
「まだあるの!?……はい、すみません、黙ってやらせていただきます。あははー書類だいすきー」
「それはよかった、もっとやらせてあげよう」
「先輩なんか嫌いだ!この鬼!悪魔!大魔王!風葵と別れてしまえー!」
「…いいからやれ」
「……はい」


これぞ、鶴の一言。
低くなった紫苑の声に、今までの威勢はどこへやら、大人しくなって書類にペンを走らせた。
結局、あみが帰れたのは、夜の八時だったらしい。


「先輩なんか、だいっきらいだ―――!!」