※若干いかがわしい



彼はとても酷い人だと思う。
人形のように洗練されたその美貌は美しくはあれど、そこになんの感情も宿さず、天使さえも虜にしてしまいそうな綺麗な綺麗な微笑みで、女の心を奪うのだ。
綺麗な綺麗な人。
だらしないはずの崩したスーツの着こなしがとても洗練されていて、いつの間にか視線を奪われてしまう。それに、ところどころにつけているアクセサリーがとても綺麗。時々見え隠れする、いくつか付いた銀のピアスも、指輪も、派手ではないのにドキリとさせられるものがある。


自分が、彼の唯一の女でないことくらいわかっていた。彼はそれを隠さない。それでも構わないという女しか選ばないのかもしれない。
私が知っているのは、彼の名前だけ。本名かはわからない、年齢さえも知らない。二十代前半にも思えるけれど、この重みを持った雰囲気からして、もっと歳上なのかもしれない。
彼は全てにおいて手馴れている、常に余裕の表情を崩さない。
このホテルだって、肩肘を張るほど高価ではないけれど、よく使うような安物のホテルじゃない。
乱れたシーツもそのままに、シャワーを浴びに行こうとする彼の背に腕を回す。


ほんの少し漂う女物の香水の香りに、私のこの恋は拒絶されたような気がした。
彼のシャツに真っ赤な口紅の痕を残しておいたら、私の後に会う女性は、私のように傷つくのかしら。
赤い華の咲いたそのシャツに、彼が少し笑ったような気がした。





BGM:Black Cherry / asid black cherry