紫苑×風葵前提で風葵とあみが話してるだけ





「でねー、しーちゃんったらね…」


学校一有名なカップルは?と聞かれたら、まず間違いなく全員が彼ら二人の名を上げるだろうなとあみは思う。
彼ら、というのは、目の前で楽しそうな笑顔で話す女王様こと桜木風葵と、帝王こと冷泉紫苑だ。
その理由は、それこそ挙げていけばキリがないのだが、敢えて一つ言うとすれば、二人が個人個人で有名すぎたせいだろう。

まず、風葵だが、彼女は女王様。この一言に尽きる。
ファンというか、最早下僕と呼ぶべきか。そんな取り巻きが大勢いて、なおかつ常に彼女に付き従っている。
風葵が喉が渇いたと言えばすぐに飲み物が取り出され、お腹が空いたと言えばすぐに食べ物が献上される。それが日常だった。
そんな状況故に、ついたあだ名が女王様。その美貌と魅惑のプロポーションで、女生徒の反感ももちろん買っているが、それより羨望の視線が多いのも事実である。
小さな嫌がらせではめげないへこたれないどころか、「おーほっほっほ!ちんけな虫けらが足掻いても何にもならなくってよ!」と高笑いをして主犯の女子を震え上がらせたくらいである。
以降、彼女への嫌がらせは激減した。当然である。

そして、冷泉紫苑。彼もまた有名人だ。派手な人間ばかりが集まる彼らのグループ内でも、屈指の知名度と言っていいだろう。
彼は水無月高校の生徒会長だ。それも、入学早々会長就任した、異例の生徒会長でもある。親譲りのその美貌は他の追随を許さず、育ちのよさを漂わせる品格、そして教師が舌を巻くほどの優秀さ。その上、全校生徒を率いるカリスマ性まで備えているというのだから、これで有名にならないはずがないのも頷ける。
…のわりには、意外に短気で怒りやすく、硬派な…いや、やや不良染みた一面もあったりするのだが、それも素敵と言われている始末なのだから、もう手に負えない。

そんな二人が交際していた。
そのせいで二人の知名度やら何やらは一気に爆発して膨れ上がり、いまや全校生徒が知るまでになってしまった。
普段の二人の掛け合いを見ているぶんには、本当にカップル…?と疑ってしまうことの方が多かったのだが、風葵からの話を聞く限り、それなりに恋人っぽいこともしているみたいだった。あみが少し安心したのは内緒である。



「し−ちゃんはねー、私の膝枕で寝るときすっごく可愛いのよー」
「……」
「ふわふわの髪が気持ちよくてねー、寝てる顔は子供みたいなの!」
「……へー…」
「しーちゃんが嬉々としてあみちゃんをいたぶってる時の表情すっごくいいわー…だからもっと虐められてね」
「ちょっと風葵!?」
「あっ、しーちゃんから電話…『はぁーい、なぁに、しーちゃん……うん、うん、わかった……いいよー、今から行くね』……じゃ、あみちゃん、またね!」
「ちょっと!!」



好き勝手に話した後は、また好き勝手に帰っていく。
もう本当に、いい加減にして欲しいあのカップル、と思いながら、あみは温くなった紅茶に口をつけた。