彼の笑顔はまるで太陽のようだと本気で思った。


「おーい、琥珀?」


嗚呼、俺の名前が呼ばれてる。
あまりの陽気さに思わず退屈な授業を抜け出して屋上で昼寝をしてしまったから彼が、刹那が俺を探しにきたのだろう。
もしかしたら、もう昼休みなのかもしれない。
心地よい彼の声が聞こえるけれども、瞼が開きそうにない。
ふわふわと頬を撫でる暖かい風が、俺の意思に反して、意識を夢の世界に引き止めて離さないのだ。


「…せつな……」


自分でも驚くほどの甘ったれた声が喉から零れだす。
春の陽気に、気分だけでなく、声帯まで緩んでしまったようだ。
春は好きだ。
空気が眠ったようにぼんやりとしていて、自分が眠っているのか起きているのかわからなくなってしまう。
だけどそれは不快なものではなくて。
春に色を付けるとしたら、きっと桜貝のような色なのだろう。
桜色でもいいけれど、その色ではいささか薄すぎる気がする。春は白じゃない。だけど、完全なるピンクでもない。
もっと混ざった、ぐちゃぐちゃになった、それでいて、落ち着いた、そんな色。


「琥珀ー…起きろって、」


困ったような声音に惹かれて、うっすらと瞼を持ち上げる。
薄く開かれた視界の中心、はっとするほど真っ青な青空を背景に、刹那の整った顔が存在している。
綺麗だなぁ、と、素直に思った。
刹那の顔を見てしまえば、今まで感じていた眠気も怠惰な欲求も全てあっさりとなりを潜めてしまい、ぱちぱちと目を瞬かせる俺に「まだ寝惚けてんのかよ」とけらけら笑う彼に揶揄されることとなってしまった。

欠伸をしながら起き上がれば、屋上のコンクリートの上に並べられた俺の弁当に、購買のパン。どうやら、俺の予想通りに、もう昼休みらしい。
彼がここまで持ってきてくれたようだ。


「食べよーぜ」
「うん。刹那、ありがと」
「いいって。じゃ…いただきます!」


に、と少年のようにあどけなく笑う彼は、この上なく青空が似合っていた。
ふわふわと浮かぶ雲も、所在なさげに揺れているのではなく、ふんわり自由気ままに旅しているような気さえする。
彼は太陽のようだった。






企画ear様に提出。
お題は「晴」