※中世パロディ
※男装の騎士と女装のお姫様
※中途半端に終わる






流れるような動作で上座に座る姫に一礼したその男は、美しい顔に麗らかな笑みを浮かべ、すっと口を開いた。

「はじめまして?我らが姫君、琥珀様。俺は刹那=インフェルノ。貴方様の騎士でございます」


王族が統治し、騎士を兼ねる貴族が仕える国。
そこの第三王女に、一人の姫君がいた。
愛らしい琥珀色の髪と瞳、そして童顔ながらも愛嬌のある顔立ちのその姫は、名を琥珀といった。
彼ら王族には、それぞれ専属の騎士がつく。
その多くは公爵家の、それも王族の親類に連なる家柄から選ばれるのだが、今回は違った。
もちろん、選ばれた騎士は名門と呼ばれる公爵家の者なのだが、彼は王家の近しい親類の家ではなかった。
しかしその実力は確かであり、騎士の中でも並び立つものがいないともっぱらの噂である。
インフェルノ卿と呼ばれ、城下でも人気の高いかの騎士が、年が近しいこともあり、姫君の直属の騎士として選出されたのだった。

そして、今日。顔合わせとなったのである。
礼をする刹那に対し、琥珀は顔を上げさせると、自身の挨拶を口にした。


「はじめまして。私は第三王女、琥珀です。よろしくお願いしますね、えと…刹那さん」
「刹那で構いませんよ、姫君。どうぞ敬語もお取り下さい」
「え、でも…」
「俺は貴方様の騎士ですよ?つまり臣下でございます。貴方様の命とあらば、俺は剣にでも盾にでも…貴方様の御心のままに、何なりとお申し付け下さい。俺の生涯、そしてこの命の全てを賭けて、忠義を尽くさせて頂きます」
「っ…そ、そんなの、私はいりません!」
「…姫君?」


突然叫んだ琥珀に、刹那が顔を上げる。
跪いた体勢を少し崩し、琥珀の顔を覗き込む。


「わ、私は…そんなの嫌です!刹那さん、私のために死んだりしないで下さい!私は、ただ…あ、貴方に、話相手になって欲しいだけです!このお城じゃ、私は一人ぼっちだから…」
「……、」
「それだけ、です。刹那さんが私と歳が近いって聞いて…それなら、お話してくれるかなって思って、それで……それだけなんです」


段々と声が小さくなる。
最後は、もう聞き取れないほど小声になってしまっていた。
…こんなこと言って、面倒くさい王女だって、呆れられたかもしれない。
考え込めば、悪い方向に向いてしまう性質が発動し、ぐるぐると考え込んでしまう。
すっかり落ち込んで、俯いた琥珀の耳に、くくっ…と笑い声が聞こえた。


「っ…ふふ…」
「…刹那、さん?」


刹那が、肩を震わせて笑っていた。
淡い銀の髪が揺れて、きらきらと光っている。
端整な顔立ちに笑みを浮かべる様は、今までのどこか掴めない飄々としたものとは一変し、少し幼い。


「…なるほど。どうやら俺の姫君は、とんだ変わり者のようですね」
「あ、あの…」
「そのようなことを申し付けられたのは初めてです。…御使えのしがいのある方だ」


不敵な笑みを浮かべ、琥珀の手の甲に接吻を落とす。
あわあわと慌てる琥珀を見上げて、悪戯っ子のように微笑んだ。


「…これから、よろしく?俺のお姫様」