ハゲ三兄弟の女子会と被害者恭真
ヒロさんに捧ぐ!






「オー…キョウハクリスマスデース…デモキョウマハワタシデハナイオンナノコトデートナノデース…セツナイデース…」


大きく荘厳な教会は、クリスマスイブだというのに閑散としており、僅かな人数しかいなかった。それもそのはず、その教会には、何故かハゲが三人揃って陰鬱な雰囲気を醸し出しており、それに加え、そのハゲはガチムチだったからだ。いや、そこまではまだいい。ハゲでガチムチな男三人が揃っていたからといって、ここまで人がいなくなることはなかったはずだ。問題なのは、この三人の恰好というか、服装である。


「コノフクデモダメデショウカ…オーキョーマー…」
「大丈夫デース!トッテモ素敵ナドレス!キット上手ク行クネ!」


ガチムチハゲの服装。それは女装だった。
それはもう、見事なまでに美しいふりふりのドレスが、ぴっちぴちである。白、赤、ピンクとカラフルなドレスに身を包み、女子会染みた会話を交わすガチムチ×3である。聖夜に一体どんな視界の暴力だと突っ込みたい。うっかり聖堂に入ってしまった人間が「あ、オワタ」みたいな顔をしたのにも気づかず、何だか会話が盛り上がったと思ったら、ミニスカサンタというとんでもない汚物が荘厳なステンドグラスをぶち破って飛び出していったのだから、可哀想なクリスチャンの親子は揃って合掌した。誰だか知らないけれど、可哀想に。





冷泉恭真にとって、世界の全ては、言ってしまえば敵ではない。冷泉恭真という存在、否、正しくはその存在に課せられた責務が、彼を害するものを全て排除してしまうからだ。一定時間に区切られた期間において、冷泉恭真は文字通り敵なしである。彼を排するということは世界の崩壊と同意義であり、すなわちその時が訪れるまで、冷泉恭真に死は無縁である。

嗚呼つまり結局何が言いたいのかって。
こんな最低最悪なチート機能いらないから今すぐこのキモイハゲを排除して下さいお願いカミサマ。


確かに冷泉恭真は死なない、死ねない。代替わりをするまで無理矢理に生かされ続ける。しかし、そんな悲惨な運命を背負っているからといって、だからって何でも彼の思い通りに動くわけがあるわけがないのだ。「死なない」だけでもちろん怪我もするし病気にもなる、圧倒的戦闘能力があるわけでもなければ、読心術だって使えない。平たく言えば、最後の最後に死にかけたら助けるけどそれまでは知らね、である。彼の意に沿わない者がいたって、そんなことに干渉してくれるわけがないのである。例えそれが、多分きっと死んだ方がこの世のためになるだろうガチムチ女装ハゲゲイのマイクとかいうキモイハゲでも、やっぱりそんなことは関係ないのである。

本当に、一体全体、カミサマはなんであんなキモイの作ったんだろうキモイきも過ぎるあんなキモイのこの世にいらねぇと全身全霊で逃げ回っても着いてくるガチムチに恭真の心はぽっきんいく寸前だった。SAN値はすでにぶっちぎっている。



「俺カワイソウ」
「キョウマー!アイシテマース!!ドウデスカコノサンタコスハー!!」
「どうせなら可愛い女の子にミニスカサンタで「プレゼントは私(はーと)」とかされたかったなコンチクショウ!!!!死ね!!!!まじで死ね!!!」
「プレゼントハワタシデース!!」
「言わせねえよ!!!!!!」




もう本当、この変態ガチムチ女装ハゲゲイ、豆腐の角に頭ぶつけて死ねばいいのに。
クリスマスイブの夜だっていうのに、寒い冬空の下だっていうのに、本当だったら好みのナイスバディの女優と食事してホテルにしけこんでるはずだったのに、上着脱いでシャツだけでゼイゼイ言いながら走り回っている自分の境遇を想って、とりあえず恭真は泣きたくなった。早く死なないかな、あのハゲ。




「シド助けて俺もう心折れそう」
「頑張れ」




電話の向こうの悪友の背後から女の子の声が聞こえたから、とりあえず自分の気持ちをわからせてやるためにも、そして腹いせに台無しにしてやるためにも、シドのいるだろうホテルへと足を向けた。



「嗚呼もう最悪のクリスマスだ!!」



メリークリスマス。
街頭のケーキ売りのサンタクロースが陽気に前夜祭を祝っていた。