真白







そもそもこれが始まりだったとは言わない。

どこから意識があったのかすら定かではないのだ。だというのに自分だけの判断で幕引きを決めるだなんて浅知恵にも程があるのではないだろうか。

能力を必要以上に高く見積もり過ちを誰かにこすりつけようとしている腐った肉の塊が、どうして舞台を取り締まる指揮者の意図を理解できよう!

崇高なこの博愛さが簡単に読解されたりでもしたらたまらない。

分からないからこそ、続きは気になるものだ。曲のタイトルを知らないがゆえに聴衆は名も知らぬ歌の魅力にとりつかれ心から心酔できる。人生は初体験を繰り返す。初体験は一度しか訪れない。二度起こったことに対してはもう感動は与えられない。

真宮真白は目玉を始めてほじくったときのことは、あまり覚えてないという。初めて目玉をほじくり返し舌先でつついた感触を、記憶に残っていないと言ったのだ。

嘘なのか真実なのか、見分けはつかない。

勿論本当のことは真白にしか分からない。分かりようがない。自分を一番よく知るのは自分だ。他人をもっとも理解できるのは他人ともいえる。

とにかく真白は無邪気に人を殺すということを覚えていて欲しい。

博愛だからこそ、平等に愛をねじまげているからこそ彼は人を殺すことができる。平等だからこそ成せることだろう。一瞬でも殺すことをためらってしまえばそれはもう博愛ではない。表現できないほど小さな差別が生まれてしまうのだ。

それはそうと、好物は何かと聞かれれば彼はきっと少年のような顔立ちを笑みの形に歪ませ、こう答えるだろう。

「目玉とォ、ニク。ア、肉はオンナのガいいなァ、オイシイカラ」

淡々と言い放ちながら微笑む姿は悪魔かそれとも外道か。

どちらもでない。どちらとでもあって、どちらでもないのだ。真白は真白だ。残虐で無邪気でカニバリズムと眼球偏愛を拗らせた美しすぎる殺人鬼とも呼ばれる存在。

それが真白なのだった。「空」の名前は「空」であるかのように。また「真白」は「真白」だった。

さあさあよってたかって頬を引きつらせろ!

悲劇は既に終焉を迎えようとしているのに、己たちの危機を理解していない人間の群集を静かに見下ろしている影。今宵の主役の登場だ。

手に握っているのは銀色に月の光を吸い込む一本のナイフのみ。舞台の上に上がるには少々物足りない気がしないこともないが、観客は彼の姿を見た瞬間、そんな文句も出なくなるだろう。

青年へと移り変わろうとしている危うい年齢の少年が持つ、銀色の刃のなんと美しいことか!

未発達かと疑いたくなる華奢な体躯に似合うように造られたのかと思うほど、ナイフは真白の手に収まっている。まるで彼の息吹を吹き込まれ同調するかのように、雲の隙間から顔をのぞかせた月光にぬらりと光る。

さあ、準備は整った。

今日も元気に目玉を狩ろう。狩って狩って狩りまくり、そしてその後は。フィナーレも。エンドロールも。全部、全部。

「あ、はァ」

おいしく、真白が、頂こうか。






彼は、舞台の主役だった