ヒロさん宅リヴァンさんと我が子閑のコラボカプ





 翼をもいでしまえば、何処へにも逃げられない。
 希望を奪いとってしまえば、前を向くことができない。
 そして、また翼という希望を与えてしまえばいい。僕という光を、与えてしまえば君は俺しか見れなくなる。

 ただ、誤算だった。君の忠誠心は、一般のソレよりも、異質で異常で強固たるものだったなんて。


「主……様……」


 完全に壊した筈だ。彼女の白い指先が、すがるように僕の着流しを掴み、握り、シワがよって惨めな姿になっているのだから。戦場に立つ凛々しさ、強かさは今の彼女から微塵も感じられない。
 しかし、それでも彼女は私を見ない。理性が崩壊しても、彼女の瞳孔を通して脳裏に宿っているのは別の男の姿。眼中にあるのは、俺とは別の男の姿!

 彼女の頭を包み込む美しい金色の髪を両手で鷲掴んで、引き寄せる。僕の目と彼女の視線は絡みあっている筈なのに、何故だ? 何で君はこんなに遠い。
 触れている筈なのに。自由を奪った筈なのに。何でなんだよ。何で、僕を見ようとしない!? 僕にすがらない!? 壊れて尚、幻影に従い続ける!?


 ふと、リヴァンの頬に一粒の滴が、伝った。ここは、室内の筈だ。いや、寧ろここは海の近くだったか? 何故、潮の香りがするんだ。
 上を見上げようとすると、リヴァンの手が、僕の頬を滑る。リヴァンが、僕の顔に触れることはほぼと言って無かった。リヴァンが、僕を見てくれている。そんな淡い期待を胸に抱き、リヴァンの美しい瞳に目を向けると、ソコには相も変わらず光を宿さない、リヴァンの瞳があった。


「……主様、なぜ……泣いているの……ですか……?」


 泣いている? なんだソレは?
 涙等、弱者が流すもの。冷泉家当主には不必要なものだ。実際に、そんなものを流した記憶は、私の中にはない。
 しかし、リヴァンの手は濡れ始めている。それだけじゃない。胸が、押し潰されそうなんだ。何かに圧迫されてるようで、歯がゆくて、手元が寂しい。こんなモノ、僕は知らない。

 イラナイものだ。だけど、使えるならば僕はなんだってする。
 そっと、リヴァンの手を、自分の手で包み込み、頬から逃がさぬように固定する。


「……ねぇ、慰めてよ」
「……主様の……仰せのままに……」


 リヴァンは、僕の体を包み込むように抱き締めてくれる。鎧では感じることができない、女の体 女の暖かさ。
 きっと、あの男はソレを知らないのだろう。リヴァンに涙をぬぐってもらったことも、抱き締めてもらったことも。そして――。


「そうじゃないでしょ……? 体で、慰めるんだ」


 彼女の中も、アイツは知らない。
 ベッドに彼女を押し倒し、貪るように彼女の体を求める。
 精神がイカれようとも、例え心が俺のものにならずとも、彼女の体は僕の手元にある。
 逃してなるものか。精神が手に入らないならば、精神をぶっ壊してでも、私はこの女の全てを手にいれる。


「……主様」


 だけど、君は卑怯だね。


「お慕い……しております……」


 君の言葉は、全て刃のように僕の胸を突き刺すんだ。針を飲んだような激痛に口角が歪む。

 そんな戯言を言う君の口なんて、縫ってしまおうか。