「あー…深織の中、きもちー…」
こんな関係、望んでなかった。
鈴太君が、半場強引に僕と援交する形になってしまった。今まではふざけ合っていたのに、会えば鈴太くんは僕の肩を抱く。そして、結局セックスの流れになる。
お前のためだ、とお前も俺が好きなんだろのコンボはまた独りよがりで、僕の気持ちを踏みにじる行為だった。
それでも、嫌いに離れない。僕に感じる鈴太くん。微笑みかける鈴太くんはみたことなくて、逆に照れくさいくらいだ。
だけど、やっぱり気持ちがなくなってしまったんだ。
「ハハッ……今日も、たっぷりだな」
容赦なく鈴太君は僕の中に注ぐ。あの日、恭真さんが僕にしたように、沢山そそいだ上に、栓までするようになった。
僕だって、人間だ。怒りたいときもある。
愛されたいと思うことだって、あるんだ。
「もう、いいでしょ。如月君」
「え」
「もう、やめようよ。お金もいらないから……お互いの為だ」
そして、以前のように元どうりになりたい。
愛されることはなくても、僕の趣味を理解して、共感して、バカみたいに笑って、でもやっぱりぶっ壊れている鈴太君を見るのが好きだった。始めて、君の隣だと生きているって思えたんだ。
なのに、今じゃまた道具のように生きている。こんなの、うんざりだ。
何も言わなくなったかと思えば、鈴太君は僕の上に跨って、頬を殴ってきた。一発だったけれど、それは痛くて、顔をあげると完全に据わった目をした鈴太君。
「深織、なんつった? 今」
「……す、ずた君?」
「やめる? で、どうすんだ? ほかのやろーとヤるってか」
「ち、ちが」
「俺を、放置して、お前は消えるって言ってんのか」
「な、何言ってるんだよ……今のお前おかしいよ!」
「おかしくさせたのはお前じゃねーか!!」
腹の上の男が、吠える。そして、親の仇を見るような目付きで僕を睨み付け、首を両手で絞め始めてきた。
「あ゛ぐっ!?」
「お前のせいだ」
「ぅ…ずぅ……!!」
「お前が俺を一人にするから!! 俺にはお前だけしかいないのに! 死ね!! テメェなんかしんじまえ!!」
走馬灯のように父上が、言っていたことが思い出される。
母上は、鈴君がキッカケで自殺をし、鈴君の存在を忘れたんだとか。
今の僕は、もしかしたら母上と同じことをしているのかもなぁ―…。
朦朧とした意識の中、後味が悪く、呆気ない最期に感づき、鈴君に手を伸ばす。
「あいし、てる」
最期になるかもしれない言葉だと思った。だけど、急に首の圧迫感が緩み、酸素が肺へと循環していく。少しずつ戻っていく意識に、頬に何か暖かい水滴が落ちてきていることに気がついた。上を見上げると、鈴君がボロボロと涙を流している。
「じゃあ、なんでおれをひとりにするんだよ」
「……す、ずくん」
「なぁ、なんで。おれがわるいこだからか?」
「……違う。鈴君……げほっ」
「さみしい。さみしい……みおりぃ……!!」
鈴君だって暗殺者だ。何れだけ怒っていても、鈴君は悪知恵が働く。なのに、目の前の鈴君はまるで、子どもそのものだった。
小さなバケモノを、僕はそっと抱き締めた。鈴君はやっぱりガッチリしてでごつごつしてる。だけど、僕はそれが好きだ。
「……鈴君が女のコがいいから、がんばってたんだけどなぁ」
「は……?」
「僕が冷泉さんとえっちを二ヶ月……というより僕の体を好きにしたら、鈴君にぴったりな女のコ見つけるって約束したんだ」
「おま……さっき」
「ああ、さっきのは嘘。今の言ったら鈴君怒ると思って……!?」
鈴君は、僕を抱き締め返しながら押し倒す。鈴君の顔は見れないけれど、強く抱き締められてるところからみて、多分……怒ってない。
「ふざけんな」
「……はは。やっぱ?」
「頼んでねぇことすんじゃねぇ」
「……ですよねー」
「……そんなのいらない。深織がいたら、いい」
鈴君の小さな、だけど確実に聞き取れたソレに、僕の心臓が跳び跳ねるかと思うくらい鳴り響き……。
「……い、意味わかって……」
「考えるな」
「え」
「意味を考えんな」
「いや、一緒にって君も僕をぐぼっ!?」
「……側にいたらいい。それだけだ」
なんでお腹を殴られなきゃならないんだ。悶える僕に、裸のままそれでも顔を見せず抱き締め続ける鈴君。それが愛しくて、思わず頭を撫でてしまう。
「……君が望むなら、何も考えずに側にいるさ」
甘えん坊で、さみしがりやのバケモノのためなら、僕はなんだってするよ。
▽△
深織は、俺のものになった。
恋人とか、そんなんじゃなく。深織は俺のモノ。
充実感と安心感はあるものの、やっぱり引っかかることがある。
「やぁ。深織君と両思いになったんだって? おめでとう」
俺のモノに、勝手に手をだして、俺さえもかきみだそうとした男。俺はポケットに手をつっこんだまま、男に近寄り、壁際に立つ男の脇の壁に足を立て、顔をすこしうつむかせた、下から男を睨み付ける。
「……次、深織に近づいてみろ。テメェら全員殺してやる」
深織と俺の間を邪魔する奴は、裏社会全員だろうと、なんだろうとぶっつぶす。
そのまま男から離れようとする際、男は楽しそうに笑っていた。待ち焦がれていたように、笑ってやがったんだ。
ああ、気色わりぃ。
「ただいま、深織」
「鈴太くーん。トイレ行きたい縄ほどいてー」
「ペットボトル用意するから待ってろ。漏らしたら舐めて処理しろよ」
「鬼だ……」