BL注意







 男でも別にいけるけれど、積極的にはいきたくない。僕だって女のコの方が好きだ。でも、男の方がいじめた時爽快だけどね。
 でも、アウトラインとセーフラインは踏まえているつもりだ。手を出したら、確実にこちらが食われる可能性が高いパターンとか。

 実際に、目の前の男がそうだった。
 寒気がするほど、美しい男だった。男の主旨が理解出来ないまま、流れるように喫茶店に入ってしまった……掴み所が全くない。つかんでもドライアイスを触ったみたいに火傷でもするのではないのか。
 まるで人の願望を具現化仕切ったような、芸術を体現したような美貌。陶器のように、綺麗な肌のくせに雪のように柔らかそうで、触ったら消えてしまいそうな儚さ。アメジスト色の双眼は一度目にしてしまったら、なかなか視線をはずしにくい……とうか、捕らわれたような気分になる。

 ……バケモノ関係は人間に好かれやすい外見になるんだけど、この人はなんというか……神様にでも好かれやすい外見をしてるんじゃないかって予想してしまう。


「竹松深織君、どうしたの?」
「えっ、いや、別に」


 クソッ。コイツ僕で遊んでやがる。
 ニコニコと、窓から日光が差し込む様は天から天使が舞い降りたかのような情景で、喫茶店は僕と彼のエリアに目がいってしまう。

 頬杖をたてながら僕に作ったような笑顔を向ける男に、高揚と不安と恐怖と歓喜……まぁいろいろ入り交じった感情のせいで余裕が無くなりつつある。正直、逃げればよかったと後悔してる。
 机の下で携帯電話を弄りながら、僕だって普段通りの態度で対抗した。


「よく僕みたいな無名者の名前を知っていましたね! 冷泉恭真様に覚えて頂けただけで光栄です」
「まぁね。噂通りすっごく綺麗な子だったし……君こそ、僕の名前を知っていてくれたんだ。嬉しいよ」
「お褒め頂き恐縮です。冷泉恭真様を知らない者はこちらの人間ではにわかものですよ」
「恭真でいいよ、深織くん」


 何でこう……心の距離を詰めようとするんだこの男は!
 不気味だ。だけど、その不気味さも嫌いじゃない自分。自分に苦笑を浮かべたい気分になる。
 本題を聞き出そうとする前に、冷泉恭真の手が、指が僕の頬に伸び、触れるか触れないかの距離で、産毛を撫でるように指を滑らせる。


「……綺麗だね」
「!?」
「ねぇ、中学までは売春してたんでしょ?」
「!? っ!?」
「……しようよ」


 コイツは何を言っているんだ!!
 女なら腐るほど寄ってくるはずだ。何で僕だ。顔はきれいなの知ってます! 失敗作だろうとバケモノだからね!
 だけど、僕にはそれしかないはず。僕にあるものなんて……。


「……君は、強い子だ」
「……は?」
「涙を浮かべたことがあるかい?」


 冷泉恭真の親指が、僕の目元をなぞる。背筋がぞくりと震え、アメジストの瞳に、息すら忘れてしまう。


「……綺麗な涙を、流しそうだね」
「れ、冷泉っ……」


 標的にされかかってる。これは、ヤバイ。逃げなきゃ、僕が終わってしまう。
 だけど腰が抜けたみたいで全く身動きがとれない。クスクスと笑う男に、捕らわれてしまう。

 何で、何で来ないんだよアイツは!!


 内心でそう叫んだ瞬間、店員が立つはず場所で、机を強打した男が現れた。珍しく肩を上下にさせて、汗をびっしょりとかいてる僕が一番好きなバケモノの姿。


「こんの……尻軽野郎が!」
「す、鈴君! 大きな誤解を招いてしまうよ!? 僕は女のコならウェルカムだけど男は鈴君以外はごはぁ!!」
「う・る・せ・え! ったく縄で繋いだ方がいいか……?」
「いーやー! 監禁はんたーい!」
「あぁ? あの世に監禁してやろうか?」
「死にたくない!」


 髪を捕まれて、鈴君の視線に合わせられる。はげちゃう。僕はげちゃうよ。

 さっき、携帯で鈴君に助けを求めたのは正解だったのかもしれない。胸を撫で下ろすと、頭部の痛みは引いていて、鈴君は冷泉恭真に睨み付けていた。


「もうコイツにかかわんじゃねぇ。コイツはクズだからお前のためだ」
「僕、胸が痛いよ」
「……心臓を抉って楽にしてやろうか」


 何時もの調子を取り戻していることに再び安心してると、冷泉恭真は、鈴太くんを見て、また笑みを浮かべる。


「……一瞬、かなぁ」
「はぁ?」
「ううん。それより君達面白いね。友達にならない?」


 訝しげに冷泉恭真を見ている鈴太くんに、笑顔を浮かべつつも背筋は冷たい汗だらけの僕。
 ……厄介な人に目をつけられたかもしれない。