ヒロさん宅リヴァンさんと、我が子閑のコラボカプ
閑は都と出会ってない前提で、多分20代半ばくらい
カインさん→←リヴァンさん←閑
閑がヤンデレ(※通常運転)







Come hither, sweet robin -Mother Goose

  Come hither, sweet robin,
  And be not afraid,
  I would not hurt even a feather;
  Come hither, sweet robin,
  And pick up some bread,
  To feed you this very cold weather.

  I don’t mean to frighten you,
  Poor little thing,
  And pussy cat is not behind me;
  So hop about pretty,
  And drop down your wing,
  And pick up some crumbs,
  And don’t mind me.





「御当主様、何を歌っているの?」
「マザーグースだよ、知らないかい」


その方は誰よりも綺麗なのだと思っていた、わたくしが小さな子供だった頃の話を致しましょう。いいえ、少し間違っていますね。わたくしは今でも、あの方が誰よりも美しかったのだと思っています。わたくしは幼かったのです。わたくしは幼く盲目でした。その頃のわたくしは十を越えた頃合で、分家の出ではありましたが数年前に両親を亡くし、使用人として、本家に預けられていた立場でございました。あるお仕事の為に御当主様がお外へと向かう用事がございました時、よい機会だとわたくしも連れてきて下さったのです。わたくしはただ無邪気に、欧州の歌を歌って下さる御当主様の、甘やかな歌声に笑っていたのです。わたくしは無知な子供でした。


嗚呼、なんということでしょう。誰が信じられましょうか、御当主様は、この地の女騎士にそっくりお心をお奪われなさってしまったのです。ここだけの話ではございますが、わたくしの慕う御当主様のお家柄は、それはそれはたいそうやんごとなきご家系で、それ故に秘めた風習が代々受け継がれていらっしゃったのです。それは、近親婚という、あまりに現実味のないものでした。その風習に乗っ取り、御当主様には婚約者様がいらっしゃいましたが、何分今代の御当主様には御姉妹様がいらっしゃらず、年の非常に離れた従姉妹様でありまして、それがまた御当主様の執着をいっそう高めていたのだと思います。御当主様が件の戦乙女を見つめる瞳は溶け切って粘ついた飴の様に執拗で、べたついた視線が孕む熱は常軌を逸したものだと述べて差し支えないでしょう。あのような瞳で見詰められれば、わたくしであれば、熱さの奥に潜む、冷えて淀んだ激情に竦み切り、一歩も動けなくなってしまうに違いありません。長年繰り返された悪しき風習は既に御当主様の心の奥底を蝕み、啄み、あのような狂気へと形を変えてしまいました。御当主様は既に気が狂っていたのです。その日から御当主様は、髪の長く美しい金髪の女人ばかりを相手なさるようになりました。あの戦乙女の面影を追っていたのだと思います。いいえ、御当主様がなけなしの理性を動員して、一夜限りの方で満足なさるうちは、まだ平穏でした。わたくしの他に御当主様に同行した者も、まさか本当に御当主様が、あの戦乙女を手に入れてしまうだなんて、一体誰が想像出来たでしょう。ですが、例え想像出来たとして、わたくし共には、御当主様を止めることは不可能なのです。冷泉家は当主が絶対。御当主様が是と仰るならば、わたくし共に反論の余地はございません。初めて拝見した戦乙女のお方は、それはそれは、綺麗なお顔でした。今でもあの日のことは、鮮明に脳裏に焼き付いております。







「よかったねぇ、君の犠牲で、いとしいいとしい主様は、今日も元気に暮らしているよ。君の代わりの従者なんて、すぐに現れて、婚約者も出来て、おめでとう、大団円だ」
「っ……戯言を!私を騙したな!」
「ええ?騙した?そんな言いがかりなんて酷いねぇ………騙されるお前が悪いんだよ」
「こ、の…!離せ!今すぐに私を解放しろ!」
「怖い怖い、伯爵の名前を出されただけで、真偽も見抜けなかった馬鹿な騎士様のくせに…はは、君って本当、何の役にも立たなかったねぇ。所詮女じゃ、この程度だったわけだ」


今でも耳にこびり付く、心底愉快そうなあのお声。楽し気に追い詰める、あのお方の歪んだお顔。何と皮肉なことでしょう、一族の当主たれと言われ続け、仮面を貼り付けた様に感情を抑えることが常であった御当主様の、枷のない表情を拝見したのが、あの時限りであったとは。きらきらと輝く金色の光。リヴァン、と仰る戦乙女の髪は、それはそれはたいそう美しく、初めて金髪を見たわたくしは、きっとあの方は金箔の髪と、菫青石で出来た瞳を持つ、天使様なのだと思いました。御当主様は天使様を捕まえて、あまつさえ羽を手折って檻に入れてしまったのです。嗚呼なんて罰当たりなことを、神をも恐れぬ御当主様の所業、あの方は御当主様です、冷泉家の御当主様です、そうして育てられたお方が、神なぞ恐れようはずがありません。


わたくしは今年、二十歳となります。
あの日以来、わたくしは天使様のお姿は拝見しておりません。
あの事件の結末を、わたくしは知りません。
ただ、これだけを申します。ただこれだけで、結末はお分かりになるでしょう。わたくしの成人式に顔を出して下さった御当主様の肩に、あの日と同じ金箔の髪がありました。
御当主様が小さく笑います。あの日と違って、感情の読めない柔らかな微笑みで、わたくしに柔らかく笑いかけるのです。
ふうわり、金糸が風に舞いました。
そういえば最近、御当主様に跡継ぎ様が御生誕なさったそうです。跡継ぎ様をご覧になれば、冷泉でない者は、誰もが口を揃えてこう言います。


「何とお美しい金髪だこと!」








駒鳥駒鳥、甘い言葉に騙されて。
駒鳥駒鳥、羽を折られて籠の中。