和風組のキャラ練習
わらしべ長者のように一人ひとりが順番に出会って会話していきます







「よお、兄弟。何してるんだ?」
「おや、兄弟。そちらこそ何を?」

森の奥と言うべきか、林の奥と言うべきか。
とにかく人里離れたその場所で、紅い鬼と蒼い鬼がばったりと出会った。

紅い鬼の名は紅(こう)といった。本名はわからない。
蒼い鬼の名は蒼(そう)といった。本名はわからない。

彼らは義兄弟の契りを交わした鬼だ。
正反対に等しい性格をしているが、仲がよく、かれこれ数百年の付き合いだった。

「俺は、ちょっと町に行ってたんだよ」
紅が言った。
「奇遇ですね、私は今から行くところですよ」
蒼が言う。
「じゃあ、またな」
「ええ、また」





「おや、貴方は…」
「なんだ、蒼鬼(そうき)。お前か」
「お久しぶりですね、氷桜さん」

町へと続く道を下っていくと、ふととある青年に出会った。
流美な着流しを羽織り、長く美しい銀髪と透き通った青色の瞳。そして、頭にある銀の狐耳と、後ろにある九本の銀尾。
氷桜(ひおう)という名の、天狐だった。

「貴方が町の近くにいるとは、珍しいですね」
「そうでもないさ。俺は退屈が嫌いだからな」
「ああ、なるほど。人里は中々に愉快ですからね」
「それではな」
「ええ、また」





「十六夜、こんなところで何してる」
「ん?氷桜じゃないか。君も町へ?」
「それより、耳も尾も隠さず人里に行く気か、阿呆が」
「いやいや、町が近くなったらすぐに隠すよ」

町が見えるほどに近づいた山中、氷桜と同じく狐耳と尾を持つ青年がいた。
ただし、尾は六本である。
氷桜よりも薄い髪色…真っ白の髪に耳、そして尾。瞳は銀色だった。そして、右目に何故か包帯を巻いている。
彼の名は十六夜(いざよい)といった。

「…今すぐ耳と尾を隠せ、人が来る」
「ああ、本当だね」
「俺はこっちの道だ、それではな」
「ではまた」





「あの、すみません」
「ん?僕に何か用かな?」
「えっと、道に迷ってしまって…町はこちらの道で合っていますか?」
「合っているよ。君は…巫女さんかい?」
「あ、はい」

耳と尾を隠し、人のふりをして道を歩いていた十六夜に、後ろから声が掛けられる。
振り向いた先には、巫女装束に身を包んだ娘がいた。
おそらく、普通の人間だろう。…だが、強い霊力を感じる。
たおやかな黒髪が揺れて、清楚な雰囲気だった。
彼女の名は、蛍火(ほたるび)。
山一つ超えた先にある村で、巫女をしている少女である。

「貴方も町へ行くのですか?」
「そうだよ、君もかい?」
「あ、はい」
「なら、よかったら共に行こうか。旅は道連れ、と言うしね」





「あれ?白蓮さん?」
「…蛍火」
「奇遇ですね、白蓮さんもこの町に来ているなんて」
「…着物を駄目にしてしまったんだ」

十六夜と別れ、買い物をしていた蛍火の前を、見知った青年が通り過ぎる。
薄水色の髪と瞳。彼の名は白蓮(はくれん)といった。
蛍火の住まう村の青年である。
そして、彼は元妖。浮舟(うきふね)という女性を愛し、鬼から人に転じたという過去をもつ。その事実は、誰も知らない。

「それは大変ですね…着物は買えましたか?」
「ああ、買えた。後は帯を買うだけだ」
「それはよかったです」
「では、俺は行く。…村で会おう」





「白蓮、」
「…?…咲耶、こんなところで何を?」
「旦那と待ち合わせ中」

着物と帯を買い、一服してから村に戻ろうと考えた白蓮が立ち寄った団子屋に、酷く人目を引く一人の青年がいた。
珍しい桜色の髪と瞳。長い髪を少し女のように結い上げ、派手で雅な着物を緩く羽織っている。
彼は此花咲耶(このはなさくや)。
長い名前だが、此花が名字なのか、それとも全て名前なのかは謎のままだ。とりあえず、白蓮は名字派で、彼を咲耶と呼んでいる。
咲耶はこの町の奥、いわゆる花街の男娼であり、おまけに売れっ子だ。
とはいえ、白蓮が咲耶と親しいのは彼を買っているわけではなく、懇意にしてくれている旦那との待ち合わせによく使うこの団子屋が白蓮の行き着けであって、よく顔を合わせているうちに親しくなったのだった。

「またか。咲耶も忙しいな」
「がっぽり儲けてるから問題無し。あ、旦那来た。んじゃあな」
「…じゃあ、また」





「や、咲耶姫。おつとめご苦労様ヨ」
「……またアンタ?狐さん」
「私のことは月夜見(つきよみ)と呼んでヨ」

夜の帳も降りた頃、珍しく朝まで居座る客がおらず、のんびりと自室でくつろいでいた咲耶の部屋に、音もなく黒い影が現れた。
黒い着物に黒い羽織り。長い黒髪を三つ編みにして後ろに垂らしている。貼り付けた仮面のようなニコニコ顔は、いつ見ても崩れることはない。
その上、彼の頭には黒い狐耳。後ろには一本の黒い尾があった。
月夜見(つきよみ)という名のその男は、いわゆる黒狐の野狐である。日本発祥の妖狐のくせに、何故か似非中国人のような喋り方をする珍妙な狐だ。
何の因果か、女神此花咲耶姫の魂を宿して生まれてきた咲耶に興味を持ち、こうして時折絡みにくる。

「っていうか、俺を姫って呼ぶなって何度も言ってるんだけど」
「私にとって、君は咲耶姫だからネ」
「俺はその女神様じゃない。その魂があるだけだ」





「ありゃりゃ、これは大変アルナ」
「あ?おー、月夜見じゃん」
「十六夜くんが月を見ちゃったのかナ。新月くんが出てきているヨ」

咲耶と別れ、そろそろ帰ろうかと山道をのんびり歩いていると、不意に血臭が鼻腔を擽った。
何か面白いことかナ?と覗き込んだ先には、血塗れの地面と、倒れた人間と、そして、十六夜の姿があった。
アレ?とよくよく見つめてみると、十六夜の右目には包帯がない。そして、頭上には煌々と輝く満月。現れた右目色は、酷く濁った光のない黒。ああ、なるほど。

「全く。月を見ちゃったら新月くんが出てくるっていうのにネ。十六夜くんって変なところでドジだよネー」

新月(しんげつ)。今現在、十六夜の身体の中に存在している者の名である。
彼はかつて悪行を繰り返した悪狐であり、十六夜の右目に封印されているのだった。右目で月を見てしまうと夜の間中彼に身体を乗っ取られてしまう。

「不憫な人間達ダネ。まぁ運が悪かったと思って大人しく成仏しておくれヨ」
「っつーか、コイツら山賊だし」
「うん?ありゃ、そうなんだ?」
「いきなり襲われたから反撃しただけだ。不可抗力ってやつだよ」
「それもそうだネ」





「あれ?十六夜兄(いざよいにい)?」
「ん?よー餓鬼、今十六夜はいねえよ」
「ああ、何だ、新月兄(しんげつにい)の方か。十六夜兄、またドジ踏んだの」
「おかげで俺は自由だがな」

十六夜と入れ替わり、久々の自由を満喫するように山を飛び回る新月に、下から声がかけられた。
下に下りてみると、そこには、オレンジの髪と瞳をした、十二歳ほどの幼い少年がいた。
だが、少年の頭には二つの角がある。そう、彼、樹月(いつき)も、れっきとした妖である。
迫害されて死に掛けていた子供の身体に、鬼が憑いて生まれた鬼子だった。
故に極度の人間嫌いであるが、妖の面々には比較的懐いている、生意気ながらも可愛い弟分である。

「んで?樹月、お前は何してんの?」
「俺は今から鞍馬山に行くんだよ、空蝉姉(うつせみねえ)に稽古つけて貰ってるんだ」
「へぇ…あの天狗がね。ま、頑張れよ」
「うん。じゃあね、新月兄。次はいつ会えるかわからないけど」
「だいじょーぶだって!十六夜の奴、ドジだから」
「ああ…うん、確かに」





「空蝉姉!いる?」
「樹月か、遅いから心配したぞ」
「ごめん…途中で新月兄に会ってさ」
「ならいいが…さて、稽古を始めるか」

鞍馬山山頂。
夜明け前の薄明かりの中で、霧が立ち込めている。黒い袴に身を包み、日本刀を携えた女性…いや、空気は鋭いながらも、その容貌は少女と大人の間のような幼さをも残している。
彼女の名は空蝉(うつせみ)といった。
ここ、鞍馬山に住まう烏天狗を仕切るナンバーツーであり、若くしてその地位についた天才。
羽織りを翻し、颯爽と風を切る姿は清廉としていて美しかった。

「樹月!腕だけを動かすな!」
「は、はい…!」
「下半身を使え!足捌きを疎かにするな!」
「はいっ!」





「…ふぅ、」
「…空蝉、」
「陽炎様、私に何か御用ですか?」
「いや…随分熱心に稽古をつけていると思ってな」

陽が昇り、樹月との稽古が終わって屋敷の中を歩いていると、後ろから声を掛けられる。
はっとして振り向くと、そこには自分の上司であり、憧れである烏天狗の長がいた。
彼は陽炎(かげろう)。長くここを仕切る実力者。
空蝉はずっと、彼の背を追いかけ続けている。

「あの鬼の子は、筋がいいのです」
「ほう…」
「教えていて、楽しいものですから」
「それはよいことだ」





「ん?陽炎?」
「…紅か、」
「珍しいな、陽炎がこんなとこにいるなんて。こっちは町だろ?」
「私が町へ行くのは妙か?」
「下っ端がいっぱいいるだろ?そいつらが行ってそうだ」
「間違ってはいないが…私も、たまには下界に下りたい」

陽炎が町のほうへと歩いていると、不意に紅い鬼と出会った。
彼は紅。鞍馬山に近い山中によくいるので、自然と出会う確立も多い相手である。
襟足だけ伸ばした赤い髪がひょこひょこと揺れている。

「お前は町の帰りか?」
「いや、今から行くとこだぜ。一緒に行くか?」
「…そうだな」





妖怪珍道中。
人の中に、意外と大勢、妖怪は混じっている。