カインさん嫉妬ネタ







嫉妬心、欲望、優越感それをすべて表に出そうとするにはいささか年をとりすぎたみたいだ。 30代後半ともなると経験の方が勝りいくらかは我慢できる余裕さえある。
だがそれは決していいことではなく、 若さゆえの行動がとれないと言う事でもある。 こうしてパーティー会場で彼女がほめられ、 男によこしまな目でみられているのだろうと思うと嫌気がさした。
だがそんな感情を彼女にぶつけたところで私がすっきりするだけで彼女にとっては押しつけがましい感情なのだ。 大人の余裕、 そんなもの持っていればこんな苦労などしない、 だが嫉妬をふつふつとわきあがらせ、彼女にぶつけるという程子供でもない。 無駄に年をとりすぎたせいで、 こう言う時どうしたらいいのかよくわからないのだ。 少女というには大人びすぎて女性というにはいささか我慢が足りない。 そんな曖昧な魅力をもっている彼女をほかの男が見逃すはずなどあるはずもなく、 私がほかの客人に挨拶しているこの間にも彼女は男から熱烈なアプローチをうけている。 長い睫に、 大きな真っ黒い瞳に髪を掬い弄べばするりと抜ける艶やかな髪。 幼い少女というには大人びてだがしかし十分に色気を放っている。 
ちらりと視線を向ければたんたん無表情を押し通すリンカが顔をあげた。 男に甘えることがうまい彼女だ、 どうしたら喜ぶのかどこまでわがままを言ったらいいのかとうにわかっているのだろう。
現に数人の男性からプレゼントをもらったらしい、苦笑を漏らすと彼女が私に目をむけた。 まっすぐな視線が私をみていて、思わず視線をそらす。

そしてそのまま会場を後にし、テラスへと向かう。 ごちゃ混ぜになった思考を冷やすには風に当たるのが一番効果てきだったからだ、 扉を開けていたのは彼女がやってくることを察知していたから。
こつこつとハイヒールが鳴る音がし、 誰かくるのか分かっていたためそのまま外の風景をみていた、 ちらりと横にきた彼女を見る…… 白い肌にぴったりとはりつき、 体のラインが強調されるドレスだった。 
私と同じ髪色をした瞳が私を見上げ静かに聞いてきた。

「どうしたの……?」

「ちょっと風に当たろうと思って、 リンカは早く戻りなさい。 風邪ひくかもしれないからね」

とそう言うと彼女は何も言わず、 背後からゆっくりと腰に手をまわした。
顔をマントにうずめ、少々くすぐったい。

「こうすればいいわ」

「くすぐったいよ」

思わず苦笑が漏れると、 さらに肌を密着させてきた。
彼女が触れた部分が安温かく思わずのぼせてしまいそうな不思議な感覚がおこる。 風が頬にあたりここちよかった。

「伯爵」

「なに……?」

「私は伯爵が一番好きよ?」

彼女はとても勘がするどかった、 すぐに人の感情を察知できるそれは今までの男の経験上なのかそれとも私がわかりやすすぎるのか、 後者ならばなんとも情けない話だ。
その回答にやっとでてきた言葉は「そう」というただそれだけで、 それでもリンカは好きよと繰り返した。

もっと溺れてほしい思うのは人の性だろうか、嫉妬に狂うというにはいささか大人すぎたのだろう。 微妙な理性が残ってそれすらも出来やしない。 もう少し若ければ、もしくば彼女がもっと大人だったらと思うことがある。 時々ふと思うのだ私はこのまま彼女を引き留めてよいのかと、 年の差がひどく私と彼女の壁を作る。 心配だから……もっとおぼれてほしいと願うのだ。
いずれ死ぬだろう私をほしがってくれたらと願う、 それはなんとも暴力に近い願望だった。 自分だけしか知らない彼女それは男ならば誰しも欲するもので
大人になった今でも変わることはないらしい。

だがそれでも

「リンカ何かほしいものある?」

私は彼女が欲しいのだ、 体ではなく心もすべて

「……特にないわ」


私が死んだあとも好きでいてくれる彼女をだって私は嫉妬深い男なのだから。
君がほしがるまで私は嘘を貫き通すし、 意地悪だってし続けるだろう。
現にリンカの顔からは苦渋の表情がみてとれる、 ドレスの裾を握りしめ瞼を閉じている。


「君にぴったりな指輪をみつけたんだ」

せいぜい後悔すればいい。

「……そう」


いつしか物では耐え切れなくなり私自身を欲してくれるようになればと
それまではこのぬるま湯みたいな関係性も悪くはない。
口から苦笑がこぼれ白い息が空中へ分散する。 

君が悪女ならば私は甘んじてそれを受けよう。
ただし私も少々大人気ないがね。

そう思いながら彼女の頭をなでた。