真宮真白の人間性について
狂気、少量のグロ注意





真宮真白は気が狂っている。それは多分、真宮真白に関わった人間なら、大多数がそう答えるだろう。真宮真白は異常人格者であり、異常性癖者であり、異端者であり、社会不適合者であると。それはただ、彼が人を殺したからとか、そういう理由ではない。そういう人間は、存外この世に大勢いる。真宮真白が真に異端と呼ばれるのは、それはひとえに、彼が社会不適合者の掃き溜めである裏社会でも、手に余るどころか、敵味方一切合切纏めて切り裂くレベルの、お荷物なんて言葉じゃ表せない存在だからだ。世間どころか裏社会からも弾かれた、アウトサイダー。いるだけで害悪を撒き散らし、存在するだけで他者を脅かす、超一級品の疫病神。それが、真宮真白である。

まず初めに、この話を聞く人間に頭に入れておいて欲しいのは、先に述べたように、真宮真白は気が狂っているということである。これがない限り、この話は成り立たない。これがない限り、恐らく他人は、真宮真白を理解し得ない。いや、元々、真宮真白は理解など必要とはしていない。彼が欲しがったのは、強烈な殺意と鮮烈な刃と重厚な弾丸であり、初めから他人など必要とはしていなかったのだ。初めから、真宮真白は他人に幾許かの価値さえも認めない。否、それもまた誤りではある、ある一定の意味において、真宮真白は他人を必要としていた。殺意も、刃も、弾丸も、誰かがいなければ、真宮真白には届かない。それ故に、真宮真白は他人を愛した。己に殺意と刃と弾丸を与えてくれるだろう可能性を持つ人間を、一切合切、纏めて丸ごと愛したのである。それは、一種の博愛であると誰かが言った。博愛とは、誰を彼をも平等に公平に、一切の区別も差別もなく、均一に均等に愛さなければならない。これは、普通の、ごく一般人には、到底無理な話だ。だから、世間一般でいう、まともな感性の人間では、博愛とは成し得ぬ異常なのである。人は誰しも他人を愛し、そして憎む。誰かを愛するということは、それ自体が一つの差別であり、区別であるからだ。それは、恐らく、極限の状況では、より顕著に現れる。

例えばの話だ。列車事故が起こったとしよう。崩れ落ち、炎の手が迫る中、自分が誰を助けるか、助けようとするかーーーー簡単な話だ、自分の家族、友人、恋人、それらに向かうだろう。それが人間で、それが当然で、そうであるからこそ、人である。逆に言えば、そうでなければ、世間一般で言う、正常ではない。だからこそ、大多数は博愛を実現出来ない。誰かを決めて手を伸ばした時点で、それは差別となる。
それに引き換え、真宮真白は全くの真逆だ。彼は、極限に近付けば近付くほど、博愛に近付く。追い込まれれば追い込まれるほど、理性を失い、誰が誰かを判断する思考回路を落とし、誰を彼をも、区別なく差別なく、容赦も認識もなく刃を向ける。真宮真白は異常だった。真宮真白は、とびきりの、超一級品の、異端である。


はてさて、それでは、そんな真宮真白に与えられた称号を並べてみようか。
キチガイ、サイコパス、異常者、狂人、イカレ野郎。嗚呼、まだまだあるね、しかし時間の無駄だから、とりあえず置いておこう。ここで述べたいのは、真宮真白が先天性の異常者であるということだ。何かの外的要因ではなく、家庭環境でもなく、それなのに何故か、狂った。ごく普通の一般家庭に生まれながら、性質はまるで化け物であったわけだ。そんな彼を誰が受け入れられるだろう、誰が認められるだろう。真宮真白の幼少期も、思春期も、あまり幸せなものではなかったということだけ、今は述べようか。しかし、真宮真白は、それらにすら、何の感慨も抱かなかった。嗚呼そう、と、その程度で済ませ、もう次の瞬間にはどうでもいい事柄に分類されてしまう。

真宮真白は殺しが好きだ。真宮真白は殺し合いが好きだ。真宮真白は暴力が好きだ。真宮真白は、世間一般で、不幸とされている異常が、好きだ。だから真宮真白は、不幸にならない。真宮真白に、不幸は届かない。嫌いなものはと問われれば、気の抜けた酒と答えるような男に、不幸なんてものは何の意味も持たない。真宮真白に、不幸は必要ない。

嗚呼、なんて理不尽、なんて不条理!あれほど他者を殺し、害し、甚振り、脅かし、命を奪った人間が、決して不幸になりはしないとは!
真宮真白は死という概念が理解出来ない。真宮真白は、他人の死も、己の死も、理解出来はしない。生と死の狭間に、何もありはしない。一体誰が、彼に罰を与えられるというのだろう。どんな罰も、彼には意味を為さないというのに、どうすれば罰なんてものが存在出来るのだろう。

嗚呼、そう。最後にもう一つ、真宮真白には悪癖があったか。彼が精神疾患であることは先に述べたが、あともう一つ、彼は厄介なものを抱えていたのだった。それは、性倒錯、パラフィリア。彼は、眼球に異常に執着をしている。血潮で理性が飛んだり、噛み付いて吸血したり、殺人に陶酔したり、被虐加虐に興奮する辺り、他にもいくつか性倒錯を抱えていそうだが、飛び抜けて顕著なのはそれだ。眼球愛好、オキュロフィリア。真宮真白は、眼球が好きで、大好きで、愛しくて、そうして恐らく愛している。眼球を抉り出し、視神経をぶち切り、噴出する血潮の中で、まだ生温い眼球に口付けるとき、真宮真白は言いようのない陶酔に身体を満たされる。


真宮真白は異常だ。
真宮真白は異端だ。
そしてそれ故に、真宮真白は、ある意味で純粋だ。
例えるならば、真宮真白は獣である。人間が失った動物の本能を有し、動物のように死を理解せず、動物の如く牙を剥く。
真宮真白を、理解するな。
真宮真白に、納得するな。
一等級の異常者に、獰猛な獣に、理解も同情も憐憫も必要無い。

いずれ命果てるその瞬間まで、真宮真白は戦闘に飢え続けるのだろう。