short | ナノ


――プルルル…

電話の発信音に起こされ、手探りで携帯を探す。たしかここらへんに――ドカッ、いたたたた。手を伸ばしすぎたせいかベッドから転がり落ちてしまった。起き上がる気力もなくそのままの恰好で携帯を開くとディスプレイには"カカシ"の文字が光っていた。


…もしもし、なに?
眠そうな声だねー
眠いんだけど、今何時だと思ってんのアホんだら
暇すぎてさ
違う子にでもかければいいじゃん
最近どう?
うん、すっごく眠い
外出てみなよ、星きれいだよ
寝ていい?
最近何かあった?
…なんで
元気なかったから
…べつに、大丈夫
お前が大丈夫っていうときは絶対なんかあるってことなのよ
なんでもないって
つらいときは何でもオレ聞くからね
うん…わかってる
何でも付き合うよ
じゃあ今度水族館行こうよ
水族館?いいけど、空いてる日あんの?
暇な日ない
うーん、困ったねえ
でも一緒に行きたい
…明日は槍が降るかもね
うるさいなー寝るよ切るよ
ごめんごめん
そっちは最近どうなの?
んー?
恋愛、とか…
何、気になる?
べ、べつに!いっぱい女の子いて大変だねって言いたかっただけです
素直じゃないなあ
はいはい、素直な女の子のところへ行ってらっしゃい
オレそんな他の女の子に興味ないよ
ふーん
嘘じゃないって
よくいろんな子と一緒にいるくせに
お前だってよくアスマと一緒にいるじゃん
あれは煙草仲間なの
ふーん
なによー
オレも煙草吸おうかな
え、似合わないよ
ひどくない?
じゃあわたしも香水つけようかな
似合わないよ、そのままのほうがいい
褒められてんだか褒められてないんだか…
褒めてる褒めてる
褒められてる気しない
まあまあ
てか、そろそろ家着いた?
うん
明日朝また早いんでしょ?もう切るよ
うん、おやすみ



1週間に1回くらいの頻度でカカシからたまに電話がかかってくる。くだらないことしか話さないし、お互いちょっとした探り合いもしたりする。カカシは男友達も女友達もたくさんいる人脈の広い人だから、自分だけにやさしいのかそれとも色んな人にやさしく電話をかけたりメールしたりしているのか分からない。それがたまにわたしの中でブレーキになったりする。自分にだけだと思い込みたいのに、それができない歯がゆさといったらない。切なさが胸を苦しめるだけだ。
電源ボタンを長押しして携帯をパタリと閉め、のそのそとベッドに戻ると窓の外はほんのり明るくなりつつあったが、わたしはそのまま目を閉じた。
自然と漏れるため息に、心の中でもう一度ため息を漏らした。


110506