雨が降って来た。傘なんて持っていなかったわたしは勿論ずぶ濡れに成る訳で、そんな日に墓地にいるのはわたしくらいだった。あの人が死んでからもう三日がたち、長かったような短かったようなそんな殺伐とした日々であった。皆が黒い喪服を着て悲しみに涙を流していたけれど、わたしはそんな風に喚き泣くことが出来なかった。雨が自分の代わり泣いてくれている気がして涙が頬を伝い溢れそうになるのも気にせず、滑稽なわたしはいつまでも未練に縛られ手を合わせ続けていた。 「…」 「……」 「笑いたきゃ笑えばいいでしょ」 「笑わねぇよ、めんどくせえ」 雨が降り始めて数刻した後、誰かがこの静けさに包まれた墓地に入ってくるのが分かった。その人物はゆっくりと確実にこちらへと足を運んでいて、わたしの後ろでピタリと足を止めた。案の定後ろに立っていたのは、わたしの愛おしい個人の教え子であり、面倒くさがり屋なのにもかかわらずカカシ先生並の頭脳を持っいて、何かとわたしに嫌がらせしてくる男だった。 シカマルは手を合わせるでもなく、雨に打たれながらその場に立っていた。 「いつまでそこに居るつもりだよ」 「……」 「あいつには、アスマには紅先生がいるんだぜ」 「………」 「子供だっている。お前じゃもう無理だって分かってんだろうが」 「………」 「そうかよ、そんなに俺が憎いかよ」 シカマルの重い口調に、わたしの中で昨日までかろうじて繋がっていた何かが崩れる音がした。 「…ああ憎いよ。アスマさんを殺されてのうのうと帰って来たあんたが憎い!アスマさんに紅先生がいたってのも知ってる。子供がいるのだって知ってる。わたしとは寝てくれなかったのに紅先生には愛を誓ったってのも知ってる、…わたしはあの人にとってただの生徒でしかなかったことも知ってる。わたしの想いがただの片想いだったのも、ちゃんとわかってる…!」 ――そうだ、全部知ってるしちゃんとわかってるんだ。これを言ってシカマルがどんな気持ちになるかも、どんな顔をするのかも。わたしは最低なんだ。そんなことわかっていて人を傷付けてしまうわたしは、本当に酷い人間だ。 「何でだよ、じゃあ何で泣くんだよ」 「仕方ないじゃない…」 最早自分の涙なのか、それとも頬を伝い落ちる雨なのか、自分ですらわからなくなっていた。雨は静かに温度を奪い去り流れていく。雨の心地よい音だけがわたしを取り巻いていた。 何がこんなに悲しくて胸が苦しいのか分からない。あの人の死か、シカマルまでもが自分の前から消えてしまいそうだということなのか。 「シカマル、行かないで…」 「…」 「行かないで、もう誰にもいなくなってほしくない」 「分かってる」 「敵討ちなんてもういいからさ、」 「ああ」 そんな会話を繰り返したところで意味はない。わたしたちはしのびであり、泣くことでさえ許された立場ではない。涙を見せるべからず。わたしはこのやるせない気持ちを地面の草を握りしめて紛らわせることしか出来なかった。 ――もう、誰にもいなくなって欲しくない。もう嫌なんだよ、仲間を失うのはもうたくさん。なのに、なのに第十班の皆は行ってしまう。いやだ、もう命が失われる瞬間は嫌というほど見てきた。失うのは怖い、 すると、後ろからふっと抱きしめられた。 「俺は絶対死なねえ。めんどくせーけど、暁をぶっ飛ばして木の葉に帰って来たらアスマよりいい男になってみせる」 090325 冷えた体にあなたの体温はわたしを火照らせた |