「お前もこの絵になんか思い入れあんのか?」 ある絵を見ていたら後ろから突然そう言われた。ちゃらちゃらした青年だった。制服を着くずして、どう見てもこの場の雰囲気にそぐわない。たぶん、同い年くらいだと思う。見たこともないような見知らぬ青年。 でも、そのとき何故だか同じニオイがしたことは今でもよく覚えてる。 「…別に」 「ふーん、お前よくこの絵見てるから何かあんのかと思ってた」 「そういうきみは?」 わたしがよくここに足を運ぶことを知っているのなら彼もまたよく訪れるんだろうと思って、そう切り返すと彼は一瞬困ったような顔をした。その顔があまりにも憂いを帯びていて一瞬気後れしたけど、何で自分と同じニオイがしたのかが何となくわかってしまった。わたしと同類なんだね、 「自分が聞かれて答えられないなら、人に干渉するものじゃないよ」 「…ごめん」 「いいよ、別に」 次の日もまたその次の日もわたしたちはそこにいた。その間に会話はほとんどなく、その関係も変わることはなかった。名前も知らない、そんな関係。 この絵にどんな意味があるのか、どういう意図で作られたのかわたしには解らなかったけど、彼もわたしも吸い寄せられるようにそこに立っていた。わたしが先に居ることもあれば彼が先に居ることもあったし、どちらかがいないときもあった。でも、不思議なことに入口でばったり会うなんてことはただの一度もなかった。 けれどそんなわたしたちにも唯一共通点があったのだ。 「ねえ、リストバンドずれてるよ」 「お前こそ肩の裾まくれてるぞ」 お互い苦笑いをするしかなかった、印された数字がもうほとんど残されていなかったから。わたしたちにはすでに時間がなかった。この世界で過ごした1ヶ月をわたしは今でも忘れないでいる。すべてが初めて体験することばかりでとても新鮮だった。セミがうるさいくらい鳴いていて人がこんなにもたくさんいて空がどこまでも青く広がっていた、そんな世界が。 いつの間にか夏が来た。あんまりここにいるのが楽しくて。何よりこの絵がここにあった、貴方がここにいた。 「なあ、俺たちは間違ったことをしてんのかな」 「…さあ、どうなんだろうね」 何が正解で何が間違ってるなんて誰にもわからないけど、ただひとつ言えるのはわたし自身は後悔してないっていうことだ。 さらば、愛しき夏よ愛しき者よ 時空を越えていてもわたしたちはきっと繋がってるはずだよ。別れなんてそう考えれば全然怖くないんだよ。 お前と俺は同じニオイがした でも、もう終わり 090815 さよならは言わない |