「雨が降ってきたな…。」
墓石の前にロイは立ってそう言った。
「いえ、大佐…雨は降っていません。」
ホークアイ中尉が空を見上げて答えた。
空は少し曇っているが雨など降ってくる気配はない。
「いや、雨だ。」
ロイはそう言うと、頬に一筋の雫を流した。
(私より上に行ってどうする?)
「そうですね。」
雨が降ってくる気配のなかった空も今にも泣きだしそうな顔になってきた。
涼しい風が二人の間をすりぬける。
しばらくそこに立ち尽くしていたロイにホークアイ中尉が声をかける。
「そろそろ、戻りましょう。」
「そうだな。」
「何でもっと早く、こっちに異動してこなかったんだ、俺はっ!」
中央司令部の大将執務室の中にはフェザスがいた。
「気づいてたのに…何でっ…。」
ドンッ!!!
フェザスが勢いよく机を叩いた。
瞑った目はすぐに開いた
「俺がヒューズを殺したんだっ…!」
いつもは冷静でクールなフェザスの顔はその面影を微かに残し
両目には涙が溢れた。
「何が友達だっ…!!何が親友だっ…!!」
フェザスのいる部屋の前まで来たロイはドアノブに手をかけた
ガチャッ
「ロイ。」
「……っ」
フェザスは震えた声でロイを呼んだ。
「フェザス?!」
今まで長い付き合いであったロイもフェザスの泣き顔など一度も見たことがなかった。
「フェザス…お前、どうした?何があった?」
「ロイッ…俺のせいだ…俺が…」
まったく話が分からないロイはフェザスに近寄り話を聞こうとする。
「フェザス!落ち着け!」
「俺のせいでっ…ヒュー…ズがっ…!」
整っているフェザスの顔は涙でボロボロだった。
「…!?」
フェザスの言葉でロイは話を把握した。
ヒューズが殺されたことをフェザス自身のせいで殺されたと責めていた。
ロイ、フェザス、ヒューズは士官学校のころからの親友だった。
趣味を語り、夢を語り、一緒に笑った。
「何故そんなに、責める…?」
ロイは今にも崩れ落ちそうなフェザスを支えながら言った
「自分が許せないんだよ…!」
「…。」
「こんなに、良い地位に立てているにも関わらず…親友一人救えない…。」
「わかってたのに…すぐにでも、異動だってできた…」
「 俺が無力だった・・・せい…で…?!?!」
ぎゅっ
「そんなことない。ヒューズが死んだのはお前のせいなんかじゃない」
「おまえはそこまで自分を責めるな。私だって辛い。…でも、一人ではない。」
「お前が、フェザスがいる」
ぎゅっとフェザスを抱きしめながら言い聞かせるロイ。
「ロイ…。」
「…たまには、こうやって心を開け。ため込むな、すべて吐き出せ!」
「お前は無駄にため込む。」
「ロイ…俺はぁ…」
「今はこのままにさせてくれ…。」
月の裏側は心の暗闇に似ている
その暗闇を照らしてくれるのは・・・
ロイだった。
フェザスだったようだな。
bkm