「なぁ…あれ、何色だよ?」

池袋最強と呼ばれ近づいてはいけないと呼ばれる金髪にバーテン服を着た青年が隣に居る犬猿の仲だと言われる情報屋に尋ねる。


「毎度の事ながら唐突だね」

「仕方ねぇだろ、忘れちまうんだから」

そっか、と軽く笑いながら彼が差したものの色を答える。それに対して何度も繰り返す。幼い子どもが新しい言葉を覚えるように、彼は色を何度も繰り返し、呟く。


(秋は黄色で夏は緑…、四季の移り変わりをこんな風になって実感するなんて)

皮肉だな、と俺は内心自嘲する。
空は海と同じで青かった、でも弟の幽と歩いた帰り道はオレンジ色だった…、筈だ。それらは俺の意思に反して全て記憶から情報へ変わってしまう。染められた自分の髪の色でさえもだ。それが悔しいのか寂しいのか俺には分からない。

この色のない世界には随分慣れた。最初こそ絶望を感じたが、完全に失われた訳ではないんだと考えれば幾分楽になった。トムさんの顔も幽の顔も、色がなくても俺には鮮やかに見えるんだから。

―なら、何が怖いんだろうか?




彼から色が抜け落ちて以来、唐突に色を聞かれる事が増えた。本人曰く、忘れたくないからのようだけど、彼は矛盾に気付いて居ない。いや、気付いていない振りをしているのかもしれない。
「聞く」という事はつまりそれが何色だったかを「忘れて」いるという事。
でも俺は敢えて指摘はしない。子供のように何度も聞いてくる彼が可愛らしいのと、同時に確かに感じる優越感。


だってシズちゃん、俺の眼の色は覚えているでしょ?


いつものように殺し合いをしていた。いつものように、シズちゃんはどこから持ってきたんだか標識を持ってきて、いつものように俺がナイフで応戦。ただ、一つ、俺の手元が狂って放たれたナイフがシズちゃんの眼に直撃したこと以外。そう、それ以外は全ていつもどおり。
さすがにそんな所まで筋肉は発達していなくて痛みに唸るシズちゃんが最後に見た色は、赤だった。

彼自信の血液と、俺の眼。
鮮烈な赤に包まれてもがき、苦しむ姿は悲惨で、滑稽で、綺麗だった。



君の記憶から全ての色が抜け落ちたとしても、俺の眼の色は生き続けるんだなんて、凄く素敵な事だよね。
だから俺は今日も矛盾に背を向ける。




















彼の世界は赤に染まる
(歪んだ愛を抱えて)