・病気な臨也に一人気付いた静雄




振り返れば思い当たる節はたくさんあったような気がする。
元から胡散臭い奴だから気にはしていなかったが、突然何週間も姿を消したり、時折変な咳をしたりしていた記憶も…もしかしたらあったのかもしれない。


そして、今だ。
突然咳き込み蹲った臨也に状況が理解できない俺は昔馴染みの闇医者が一番に思い浮かんだ。これは、恐らく素人目からみても相当ヤバい。


「……新羅の所に行った方がいいんじゃねえのか」

「行かないし、この事は誰にも………っ!…げほっ」


言い終わる前にまた咳き込む目の前の男の顔は青白く、今にも倒れそうだ。


「…何、もしかして心配してくれてる?」

「………そんなんじゃねぇ、けど」

「同情は有難いけどもう手遅れなんだよ、俺に残された時間はもう長くないからね」


何だろう、こいつからの違和感は。
何かがおかしい、何かが、剥がれていくような、目の前の…この男は、誰だ。



「お前に同情なんかするか。それに、残された時間って言われても…、そんなん、俺だって明日死ぬかもしれねえだろ」


「ははっ、あくまでシズちゃんの死は仮定だろ?…俺の死は確定だ。……俺は、死ぬことが怖い、すぐ側にある死を待つことが怖い、……だから、シズちゃんなら俺を…「気に入らねえな」……え…」


「気に入らねえ、つまりお前は自殺の手伝いを俺にさせようとしたのか?死ぬなんざ生きてりゃみんな同じだ。遅かれ早かれ、俺にもお前にも来るもんだろうが」



イライラする。
よくわからねえが、うじうじと悩む目の前の男が、俺の知っているあの折原臨也とはかけ離れていて、イライラする。


「俺はお前を殺さねえ、ノミ蟲はノミ蟲らしく最後まで生きやがれ」


吐き捨てるように言い放つと呆然とした臨也はそのまま俯いてしまった。
こいつは、分厚い仮面で自分を守ってただけで、本当はこんなに脆い人間だったのか。
…そこにはもう、俺の知っている折原臨也は居なかった。


「……俺は…進化を続けられるシズちゃんの強さが、羨ましいんだ……」


譫言のように呟く臨也の顔は、俯いたままで見えなかったけれど、その声はあまりに小さくて泣き出しそうだったから、手を伸ばさずにはいられなかった。




















最期まで傍に居て
(そしたら殺してやる)