ずるずるとシーツを引きずりながら洗面台までなんとかたどりつく。腰どころか脚も腕も背中も痛い、痛い…。
歩いていく最中に点々と服が脱ぎ捨ててあるのが目に入り、おもわず目を細めた。ちくしょう、嫌なくらいに生々しい。


「っ、」


鏡を見て思わず息をのむ。予想はしてたけどこれは、酷いな、思わず他人事みたいに見てしまう。
体中至る所に付けられたキスマークと歯形と紫色の痣は、脱ぎ捨てられた服なんかよりよっぽどか生々しかった。というより痛々しい。つーか実際痛い。


「背中も、酷い事になってそうだな…」


自分からは見えないが、大体想像はついた。うしろから抱きかかえるようにされたとき、何度も噛まれた覚えがあるし。
「シズちゃんはさあ、ほんっと肌白くて綺麗だよねー」「汚したくなる感じだよね?」とか楽しそうに言われて、次の瞬間にはがぶ、と。
体に歯がずぶりと食い込む感触に背筋がふるえた。鈍い痛みと共に訪れるその感覚にはなかなか慣れる事が出来ない。


「あれえ、シズちゃんそこにいたの」

「…臨也………」

「それ、痛かった?」


分かっているならすんな、馬鹿。


「………当たり前だ」

「痛いの嫌いじゃないくせにい」

「…………」

「…怒った?」

「………………別に」


するりとシーツを落として、風呂場に向かう。正直シャワーなんて浴びたら体中の傷に沁みて痛そうだから行きたくはないけれど。とろりと膝を伝う残滓がきもちがわるくてたまらなかった。


「邪魔、シャワー浴びるんだよ」

「はいはいどーぞ」


ざああと冷たいシャワーを浴びながらいつも思う。こんな、意味のない事をお互いに理解はしているのに、いつまで続ける気なんだろうかと。
いつになればあいつは俺に飽きるのだろう。そして、その時に俺は、どうすればいいんだろうか?

あの男の好奇心と嗜虐心をみたすためのただの玩具でしかない俺にはわからない
逃げるという選択肢など、とうに奪われてしまっていたし。
……もう、あんな事はされたくない。思い出したくもない、初めの頃の俺とあいつ。


ただひとつ、俺達はお互いが殺したい位に大嫌いだということ。
それはきっと確かなのだ。こんなのが愛の行為なわけがないのだから。


ぽたりとなにかが頬を伝った気がした。