薄暗い部屋のなかで、ぎぃとベッドが小さく悲鳴をあげた。まるで、苦しみに満ちた俺の叫びのように。
俺はなにも身に付けてはおらず、シーツ一枚にくるまっているだけというなんとも情けない格好で、俺とこのさっきからぎぃぎぃと鳴くベッドを繋ぐ、手錠の鎖を握り締めた。
その度に金属と金属がぶつかり合う高い音が聞こえて、余計に俺を苛立たせた。…いや、これは苛立ちなどではなく、ただの恐怖心なのだ。いつもの馬鹿力が出ない、その焦燥を必死に誤魔化そうとしているに過ぎない。
「臨……也……」
名前を呼べば、脳裏に、もう戻ることのない笑顔が映った。
お前はこんな俺にも優しくて、大好きで、たまらない存在であったはずなのに。
「何?シズちゃん、俺の事呼んだ?」
ふいに、部屋の扉が開かれた。
その声は、確かに臨也の声なのに。俺はもう、その声に恐怖しか覚えない。
「い…っ!嫌、だ……っいやだっっ!」
「そんなに怖がんないでよ………」
悲しいじゃん、とやけにゆっくりと俺との距離を詰めてくる臨也は、身も凍るような笑みを浮かべていた。
脳裏に焼き付いているものとは似ても似つかぬそれは、恐怖を煽るのみ。
違う、お前は臨也じゃ、ない…っ!!
いくら心で否定しようともここは見慣れた臨也の部屋で、近づいてくるこの嫌な笑みを浮かべる男は臨也なんだ。
「俺はこーんなにシズちゃんのこと大好きなのにさぁ……」
そして、その手には、俺の大嫌いな…、
「い、や…め……やめてくれ!!」
「そんな目で俺を見るシズちゃんなんか嫌い嫌い大嫌いだよ」
はなから逃げ場などない。ぐいと乱暴に腕を掴まれた。
「ねぇ、シズちゃんはさ、俺のこと好きだよね?」
ちり、と腕に走る痛みを感じたと思えば、ぐらりと歪む意識。もう何度となく経験した、その感覚。
自分が、消える、感覚。
なぁ、臨也。お前は馬鹿みたいに好きだって俺に言うけどお前は本当に俺を愛しているのか?俺はお前の玩具でしかないようにしか思えないんだ。
俺は、お前を………………
(失うまで、逃がさない)
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