折原臨也、新宿の情報屋



それが残された俺自身の簡潔な情報。
ドラマや小説にありがちな記憶喪失なんて、きっと記憶を失う前の俺は有り得ないと笑うんだろうか。

情報屋という際どい仕事をしていた為か、自分自身に関する情報が酷く少ない。
家族はどうやら下に双子の妹が居て、年齢は21歳らしい。らしいというのは、確証が取れないから。こんな仕事をしながら実年齢を明かそうだなんて思えないし、恐らく虚偽の年齢ではあるのだろう。


俺の記憶が抜け落ちたのは、どうやらある男が原因らしい。池袋最強と謳われる喧嘩人形、―…俺の天敵。
新宿の情報屋なのに、池袋の人間が絡んでいる意味が分からないが、仕事の関係なのだろうか。


とにかく、彼に会ってみようと思った。




「………臨也……」

「えっと…、平和島静雄さん」


金髪にサングラス、バーテン服の人間なんて滅多に居ない。彼は思った以上にあっさり見つかった。
俺を確認すると一気に纏う雰囲気が殺気に満ち溢れる。…俺、こんな人と喧嘩してたのか…。
確認も含めて名前を呼ぶと、一瞬驚いた表情をした後、何かを確認するように呟いた後、その殺気はどこかに拡散した。

残ったのは、細身で背の高い青年。
大人しそうな彼のどこに喧嘩最強の力があるのかとも考えるが、先刻の殺気を見る限り納得してしまう。強いのだろう。
いや、強いんだ。


「俺、貴方に聞きたいことがあるんですよ」


そう、俺の記憶が抜け落ちたのはこの青年との喧嘩という殺し合いの中で彼の投げた道路標識を食らった為。打ち所が悪かったせいで一時的な記憶喪失にはなったが、頭を強く打った衝撃によるものだ、何れ色々と思い出して行くだろう。

ただ、この青年ならば、俺を知っているんじゃないかと思った。


「…その気持ち悪い敬語やめろ」

「いや、一応初対面で歳上なんで…」

「はぁ?俺とお前は高校の同期だ。敬語なんざ気持ち悪い」

「…え、いや…俺が21歳で…、え?」


歳上ですよね?と一応確認すると、渋い顔をした後呆れたような笑顔になる。
あ、この笑顔、好きだった。

…好きだった?



「……そういうヤツなんだよお前は」

「…………すみません」


何でお前が謝るんだ?と笑う彼を見ていると、何故か無性にドキドキする。
何となく、何となくだけど、彼の笑顔は好きだったんだ、と思う。


「まぁ…、俺の投げた標識が原因なんだろうな…、今のお前はノミ蟲だけどノミ蟲じゃねえし…」


ノミ蟲、とは折原臨也…つまり俺の事なんだろうか。随分な言われようだ。
うっかり死にかけるくらいだし、そんなに嫌われていたのか。とぼんやり考える。


だけど俺を見ながらバツが悪そうにする彼の様子を見ていると、このチャンスを逃しちゃいけない、という声が頭の中に響いた気がした。




















もう一度やり直し
(初めましてから)