「俺は、静雄の事が好きだ」



そう唐突に言い放ったのは、目の前にいる上司…、トムさんだった。
その言葉を聞いた俺は、ただ驚いて、俯き加減だった顔を上げた。
当然、こちらを見たままだったトムさんと目が合うと、驚いている俺を安心させるかのように、いつものように優しく微笑んだ。


さっきまで、いつものように仕事の話をしていて、途中でトムさんが口を開こうとしたが、閉じてしまった。
その様子を見て、どうしたんですか、と何気なく尋ね、返ってくる言葉を待った。
そして、困ったように笑ってから出た言葉は、自分を好きだという言葉。



「ただ、言葉にしたかっただけだ」



困らせるつもりはないから気にすんな、といつもの笑顔で伝えられ、トムさんの大きな手が俯いていた俺の頭を撫でた。

温かい手が優しく、優しく俺の頭を撫でる。心地良い、と感じた。


だが、その心地良さはすぐに消えてしまい、そしてトムさん立ち上がり、横を通り過ぎて行った。
反応が遅れてしまったが急いで後ろを振り返り、トムさんの姿を探した。
目がトムさんを捕えると同時に、俺に背中を向けたまま、彼の口が開かれた。



「気にさせちまってごめんな、忘れてくれて良いから」


お前明日もあんまりキレんなよー、お疲れさん、と手を上げて、机に置かれていた自分の荷物を手に取って事務所を出て行ってしまった。
残された俺は、少しの間だけトムさんが出て行った扉を見つめ、倒れるようにソファに凭れた。



「……トムさんの馬鹿」



返事ぐらい聞いてくれたっていいのに。

トムさんは思慮深くて優しい人だ。俺を困らせる為に言ったのではないというのは本心だろう。
獰猛な野性動物みたいだった俺に、全く臆することなく後輩として接してくれた人。手のかかる後輩として、いつも接してくれて、俺はそれが凄く嬉しくて。


…彼の暖かい手の感覚が、まだ残っているようで、何故か目頭がじわりと熱くなった。



「…トムさん、トムさん!」


置いて行かないで下さい、と心の中で叫び、ついさっきこの扉から出て行った人を追い掛けるように事務所を飛び出した。




















言い逃げなんて狡いです
(俺も、貴方の事が)