・自傷癖のあるシズちゃん
手首に向かって線を引いても、薄い皮が抉れるだけで、数日後には瘡蓋になって何もないような顔をしていやがる。
そういえば、ノミ蟲のナイフも刺さらなかった。それを見て、アイツは言ったんだ。
―本当に気持ち悪いね
知ってる、そんなの俺が一番知ってる。
コンクリートで舗装されたものを簡単に引っこ抜いて振り回したり、鉄の塊を片手で担ぎ、投げる俺は……あぁ、気持ち悪いな。
自覚はずっと前からしていた。
ただ認める事が怖くて、破壊しか出来ないこの手が怖くて、それならいっそのこと、この手がなくなれば良いと思って、右手で左手を、左手で右手を痛め付ける。
その行為になんの意味がないとしても、自戒の意味を込めて、俺はそれを止めることが出来なかった。
赤黒く滲むガーゼに包帯を巻く千景が悲痛な顔をしている、なぁ、どうしてお前がそんな顔をするんだ。
「……もう良いよ、静雄」
「何がだよ」
「一人で傷付くのはやめろよ」
言うや否や、抱き締められる。
予期せぬ事態に俺の代わりに座っていたソファが少しだけ悲鳴を上げた。
「…っ、離せ、馬鹿!」
「嫌だ。離れればまた静雄は一人で傷付こうとするから」
「意味わかんねえ、……マジで、いい加減にしねえと殴るぞ!」
「良いよ、殴れよ」
キツい口調なのに優しい顔で、訳が分からない。千景はまた俺の手首を一瞥して、悲しそうに笑う。なんだろう、お前のそんな顔は、見たくない。
「…この傷が消えても、ココの傷は消えないんだろ?」
ココ、と心臓を軽く触れられると触れられた部分がじわりと暖かくなる。
目の前でただ優しく笑う男の真意も、俺のこの不可思議な感情も、本当は全部分かっている。ただ、認めるという事が怖いだけ。俺は………臆病だから。
「…な…に……言って…」
「大丈夫、俺はハニーからの愛なら、拳でも受け止めれるからな!」
真面目な顔して言う目の前の男が何だか可笑しくて、俺の拳3発で倒れたくせに何言ってんだよって笑えば4発だ!と反論される。…んな必死に言われても別に変わんねぇだろ、やっぱり馬鹿じゃねえのこいつ。
でも一番馬鹿なのは、そんな言葉をずっと心の何処かで待ってて、今この瞬間を嬉しいと感じている俺自身だろうな。
真綿で包む
(君が傷付かないように)
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