・彼の世界は赤に染まるの続き
彼に僅かに残った視力さえも、呆気なく消えてしまった。もう、あの意志の強くて鋭い目を見ることは出来ない。
それでも平和島静雄は何もなかったように弟に貰ったバーテン服に身を包み、池袋の街で紫煙を燻らせていた。
「シーズちゃん」
「………臨也か?」
「俺以外にシズちゃんなんて呼ぶのはいないでしょ?」
「許可した覚えはないがな」
君はいつも強い、暗闇に一人取り残されて居るのに、怖がる素振りもせずにしっかりと自分の足で立っている。
伏せられた瞳に、意外と長い睫毛。
黙っていると本当に人形みたいだ。
「…お前何か変なこと考えてるだろ」
「えー?そんなことないよー」
「絶対そうだ。よし、殴るからちょっとこっち来い」
「…シズちゃんは殴るからって言われて行く馬鹿が居ると思ってるの?」
「…ちっ、」
でも俺は知っている、君から光がなくなった瞬間、俺は隣に居たから。それはあまりに突然で、残酷なのにシズちゃんは、それを静かに涙を流して受け止めた。
―…………なくなっちまったな
あの時の表情に、俺は初めて自分の愚かさを思い知った。取り返しのつかない、自分の重い罪を知った。
覚悟があったんだろう?と聞かれてなかったと言えば嘘になる。ただ、足りなかった。どこかで、壊れないと安心していた弱い自分がいたから。
当の本人に至ってはお前のせいじゃない、偶然だ。と言ってその話は終了、どうせなら激昂して責めてくれた方が楽なのに、どうして君は簡単に俺を赦してしまうんだ。
それからシズちゃんは、報復とばかりに襲われたりする事も増えたけど、その報復とやらが成功した者は一人として居ない。当たり前だ、俺の力を舐めないで貰いたい。彼に危害を与えるものを潰すだなんて、造作もない事。こればかりはクソッタレな仕事に感謝するよ。
俺が君を一生守り続ける。なんて結局それは罪滅ぼしを謳った自己満足にしか過ぎないとは理解しているけど、他にどうしようにも償えないから。
今更愛を囁けない
(だから、せめて)
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