「通信が入りました」
「どこから?」
「第二隊です、」
第二隊だと、シズちゃんの所属する隊だ。シズちゃんは体力馬鹿と言うか、あまり頭を使うのが苦手だから信号を覚えているかも怪しい。恐らくは違う誰かが通信しているんだろうか。
「ふぅん、何だって?」
「それが、理解不能というか……、……解読不能なんです…」
「……どういう事」
「メリークリスマス、という所までは分かるんですがその後が正直意味不明な言葉の羅列で……」
第二隊は今回平和島さんの単独だった筈なんですが、と続けられて思い出す。そうだ、今回はシズちゃん一人の任務だから、誰かが代わりになんて事はあり得ないのだった。
確かにシズちゃんは馬鹿だけど、だからといって基礎とも言えるSOSの信号を覚えていない程馬鹿ではないはずだ。それを使うか使わないかは別として。
「…ちょっと見せて」
「あ、は、はい…」
通信を書き起こしたメモを受けとると、確かにそこには信号化された、メリークリスマスという言葉。その言葉に思い出したが今日はクリスマスだった。シズちゃんが親友と二人で鍋をしようとはしゃいで居たのを思い出す。学生時代からあの二人はこちらが妬けるくらいに仲が良かった。学生時代から今までずっと。
ふと、手元のメモをもう一度見る。無性に笑い出したくなってしまう。ああ、どうしよう。こんなに可愛らしいメッセージをくれるだなんて。
きっと彼にとっては遺書のつもりなんだろうけど先には逝かせない。シズちゃんが俺を、俺がシズちゃんを殺してくれなきゃ、死んでも死にきれないだろう?
長い丈のコートを羽織り、帽子を被る。本当はこのまま飛び出してしまいたかったけれど、あくまでこれは仕事だから。
「まさか行く気ですか? もしかしたら罠や悪戯の可能性も考えられます」
「決まってるだろう、平和島静雄を回収してくるよ」
俺がシズちゃんの言葉を、聞き逃すわけないじゃないか。
そう簡単に、死なせて堪るか。
「…………酷い有り様」
「………………る、せぇ」
「あんまり喋らない方がいいよ? 出血多量ならシズちゃんでも死んじゃうだろうから」
「……はっ…………どーだか…」
「もうすぐ救護が来るから…、俺には応急措置しか出来ないけど」
「………」
「覚えてたんだね、あの暗号」
止血をしながらシズちゃんに話しかける。出血多量ならばシズちゃんでも本当に死んでしまうかもしれない。酸素と血が足りないせいで上手く喋れないシズちゃんには構わず喋り続ける。
「…………んの、ことだ」
「ちゃんと届いたよ、シズちゃんからの愛のメッセージ」
「……きもちわりい……」
「酷いなぁ、俺は今すぐにでもシズちゃんの熱烈な愛に応えてシズちゃんを抱き締めてキスをして愛を囁きたいんだけど、時と立場と場所があるじゃない? ねえシズちゃん」
「な、ん……だよ」
「応急措置……うん、人工呼吸は、キスのうちに入ると思う?」
ニヤリ、と笑うと目を見開くシズちゃんに「人工呼吸」をすれば、口内は砂埃と血の味がしたけれど、唇を離した時のシズちゃんの顔が今までに見たことがないくらいに真っ赤で、これはこれで悪いものではないな、と笑った。
Merry X'mas for you.
(大嫌いな俺の恋人へ)
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