・設定は曖昧だけど軍パロ
・臨也さんが静雄の上司?






頭を使うのは嫌いじゃないが苦手だ。
小難しい理論とか理屈は大嫌いで、そういった座学の成績は下から数えた方がきっと楽だった。役に立つ立たないとかの問題ではなくて、別に勉強していないわけでもないが、苦手なものはやっぱり苦手なままだった。



「んな信号何の役に立つんだよ……」

「シズちゃんが敵に捕まったりして、助けを呼びたいときに使えるじゃん」

「…………んなのあれだ。全員纏めてぶっ潰せばいいじゃねえか」

「……シズちゃんってやっぱりバカだよね」



はぁ、と態とらしく溜め息をついてくる目の前の男、折原臨也は学年首席だ。文武両道、容姿端麗なまさに模範生も俺にとってはただのムカつく同級生でノミ蟲だ。
そんなノミ蟲と何故こうして向き合っているのかと言えば、俺自身の座学の成績の悪さが原因だから情けない。こんなノミ蟲に勉強を教えて貰うのはどんな拷問よりも耐え難いが、自分の進級がかかれば贅沢など言っていられない。文句より先に手が出そうになるのを堪えてノートに目を向ける。
小難しい理屈や理論は好きじゃない。だからこいつの事もいまいち好意的に見ることが出来ない。それ以外にも色々と理由はあるが、要は本質的に合わないんだろう。だから目の前でシャーペンを弄る臨也が不機嫌になっていく理由が、俺には分からない。カチカチ、とシャーペンのノック音が規則的に響く室内は、酷く居心地が悪い空間だ。



「じゃあシズちゃんは一人で戦う気?」

「……………別に、そんなんじゃ……ねえよ」

「ならそれは必要なんだよ、君にとって」



臨也が嬉しそうに笑うと圧迫した雰囲気が一気に散らばり、安堵した。そして初めて臨也が年相応な表情をしたような気がした。優等生じゃない、普通の学生の折原臨也の表情。見ているのが何故か恥ずかしくなって顔を逸らす。身体中の熱が、顔に集まっているんじゃないかと錯覚するみたいに熱い。
どうにか話題を変えよう、俺は普通を装い口を開いた。心臓は早鐘を打っている。こちらにまで音が聞こえてくるんじゃないかと思うほどに。



「でも、やっぱり俺は覚えたりするのは苦手だ」

「…………じゃあさ、作ろうよ」

「は? 何を?」

「俺達だけの暗号」








自分のか相手のかも分からない血に濡れ、壁に凭れながら昔の事を思い出す中で、そういえば今日はクリスマスだったなぁと冷えていく頭で考える。命日がクリスマスだなんて、随分とロマンチックじゃないか。似合わなすぎていっそ笑えてくるな。

そうだ、帰ったら鍋をしようとセルティと約束をしていたんだった。新羅や門田達、後輩の奴らや、臨也も一緒に。ここには居ない親友に内心謝罪をする。悪いなセルティ、鍋は俺抜きになりそうだ。


カチ、カチとゆったりとした時計の針を見詰めていると昔に逆行していきそうになる。成る程、これが死に際に見るという走馬灯ってやつか。意外とあっさりとした、普通な終わりだなあと考えながら信号を送る。応援なんて要らない。きっとこの場は、全滅だろうから。


薄れていく意識の中で最後に願うのは、この信号を見るのがお前であって欲しい、お前にこのメッセージが届けばいい、という事だけだった。