・日々也とデリが幼なじみだったら
人に会うだけでこんなにも緊張するのは、それが数年振りに会う相手だからでも、昔馴染みだからでもなくて、所謂初恋の相手だからだ。白いスーツにピンクのシャツ、耳を覆う大きなヘッドホン。いつの間にか抜かされていた身長にショックを受けたものの、陶器のように美しい肌や意思の強い瞳は昔のままで、艶かしい身体は磨きがかかったようにも思われる。
「え、お前誰……?」
「お忘れですか? 日々也ですよ、デリック」
「日々也? 日々……ああ! あの我が儘泣き虫王子野郎か!!」
良い印象は持たれていなかったと知ってはいたけれどさすがにこれは堪える。忘れられていなかっただけマシかもしれないが、出来る事ならば昔の俺を殴ってやりたい。
それでも俺は、君に相応しい男になる事を目標に過ごしてきた。昔の不甲斐ない俺とは違うんだ、だからここへ来たんだと自分に言い聞かせる。
「嘘だよバーカ、ちゃんと最初から覚えてたっつーの。そんな泣きそうな顔してんじゃねえよ」
「……え?」
「お前昔から分かりやすいよな」
「そんな事はないと思うんですが…」
「……その敬語胡散臭いし気持ち悪い」
「これは癖のようなものですよ」
笑顔で返せばデリックは気に入らないのか不機嫌そうな顔になる。君のために必死に勉強もしたし泣くのを我慢した。君のために我が儘も抑えた。全部全部、デリックに相応しい人間になりたい一心で。
――デリック! デリは俺と将来結婚するんだよ!
――はぁ? なにいってんだお前。俺は泣き虫でわがままなヤツとなんか結婚したくねえ
――じゃ、じゃあ! 泣き虫なのもやめるしわがままもいわなくなる!
無理だと笑われたけどそんな事はないと誓った。デリックのためなら自分も変えられると本気で思っていたし、それを原動力にしてきたのだから。
「……何か、調子狂うっていうかなぁ」
「何かご不満でもあるのですか?」
「いや、まぁ……お前もあんまり変わってねえなって」
そうやってふわりと笑うデリの方が変わっていないじゃないか。じわりと涙が込み上げるのを堪える。もう情けない姿は見せないと誓ったのに、どうしてこう意図も簡単にデリックはそれを崩してしまうんだろう。
ふと自分の目的を思い出す。再会に浮かれていたけれどそれが目的な訳ではない。むしろ、俺の目的はその先だ。
「俺は、君を迎えに来たんですよ」
「…………は?」
「約束を覚えてますか?」
デリックはぽかんとしていたが言葉の意味を理解すれば顔を林檎みたいに真っ赤に染めた。良かった、やっぱり君は覚えていてくれたんだ。そのまま睨んでも可愛いだけなのに、本当にデリックは可愛い可愛い、俺だけのお姫様。
「おせえんだよ、バカ王子」
真っ赤になった愛らしい姫に、俺はそっとキスをした。
御迎えに参りました
(待たせてごめんね)
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