・懲りずにゆるふわヤンデレ






「はじめまして、俺は、津軽」



にっこり、と笑った彼の笑顔は花が咲いて、天使のようだった。同じ顔をベースにしているのにこんなにも違うのか、という感嘆と共に、小さな恋心のような感情を抱いた。
それは恋と呼ぶには遠い、言うならば近所の姉さんに対する憧憬を恋と錯覚するような、あまりに稚拙で、むず痒いものだった。

津軽はいつもぬいぐるみを傍らに置いていた。図体のデカい男がぬいぐるみなんて、とは思ったけど、精神的なものは子どもと変わらない津軽にとっては大切なものなんだろうと、納得していた、それなのに。
突然、彼のなかでそれはただのがらくたに変わってしまったのだろうか。じゃなければ、こんなこと、あるわけがない。



「津軽、何して…………」

「…………コレはもう飽きちゃった」

「え?」

「デリが代わりになってくれるよね?」



中から綿が出て、何とも無惨なぬいぐるみは本当に津軽が大事にしていた物なんだろうか、と疑いたくなる。そしてその強烈なインパクトに一瞬判断が遅れた。今、津軽は何と言った? 代わりになる? 何の? ……この、ぬいぐるみの?

こんな突拍子もないことを笑顔で言うヤツを俺は知っている。同じプログラムの一つでしかないけれど、それは、俺の兄だ。
どこまでも自分の感情に素直で、純粋な子どもみたいなのに歪んでいる俺の兄の、サイケを思い出した。どうしよう、こわい。
兄を彷彿とさせる津軽の変貌に情けなくも身体はガタガタと震えるだけで、近付いてくる津軽を拒むことが出来ない、こわい、嫌だ、怖い。



「……やっぱりみーんな、みんな、津軽から離れちゃうのかな?」

「……え…、あ」

「ひとりぼっちは寂しいんだよ? 暗くて寒くて寂しいの」

「………つ……つが……」

「でもこれからはデリがいるもんね? もう津軽さみしくないよ」


にっこりと花が咲く様に笑う津軽は、初めて会ったときと全く変わらないはずなのに、今の俺には悪魔の微笑みにしか見えなかった。覆い被されてキスをされる。傍らに見えたボロボロのぬいぐるみがこれからの俺を表しているかのようで、ポロ、と涙が溢れた。









愛しのお人形さん
(だいすきだよ!)