・キャラ崩壊というか倒壊






夜になっても池袋の人波は減らず、逆に増えていく。そんな中を黒いコートの青年が歩いている。…それだけならば日常のありふれた光景として処理されるであろうが、彼の背中に非日常が存在していた。
その姿を確認した人は一瞬物珍しそうに見るものの、自分に被害が及ばないようすぐに目を逸らす。


ありふれた日常の中の非日常―、黒いコートの青年、折原臨也が背中に池袋最強の男、平和島静雄を背負ってい歩いていた。




大通りを抜けた、ビルの明かりがなくなると少しだけ道が薄暗く感じる。


「何で俺がこんな事しなきゃいけないんだよ…」

背中ですやすやと眠る男が恨めしく思えてきた。押し付けられたからとはいって律儀に彼の家まで送り届けなくてもその辺に捨て置くという選択肢はある。恐らく押し付けた方もそうする事は想定内であろう。

しかし酔っ払いと化した喧嘩人形は普段からは想像出来ない程に警戒心がなく、隙だらけだった。


…こんなシズちゃんは見せたくない。


そして折原臨也は一番楽な選択肢を放棄した。



「大体弱いんだから飲むなっての」

シズオ、思春期、シカタナイヨーと押し付けた張本人であるサイモンは言っていたが全く意味が分からない。成人男性が思春期って、大体シズちゃんなら反抗期のがお似合いなんじゃないの。
はぁ、と溜め息をついてもう一度背負い直すと振動で目が覚めたのかもぞりと背中の荷物が動く。


「いざやあ…?」

「シズちゃんやっと起きた?ていうかもう君の家まであと少しなんだけどね。俺は運び屋じゃないけど、報酬はしっかり貰うからね」

「…んぅ、…しゃむい」

「?!」


まるで甘えるかのようにぐりぐりとコートのファーに顔を埋める。揺れたファーが自分にも当たり、少し擽ったい。


「…いざやはあったかい、な」

どうしよう、何これ。
おかしいだろう、どう考えても俺達は殺し合うくらいに嫌いあってて、それは一つのアイデンティティ的な物でもあるわけだ。なのに、何だこの状況は。

考えを振りきるように慌てて家に入り、背中の男をベッドに放り投げる。一応情けとして水は置いといてあげよう、俺も喉乾いたし。大丈夫、明日からはいつもに戻るんだ。恩を売るのは悪くないけど、これは違う。


水の入ったコップをテーブルの上に置きながらシズちゃんに声をかける。


「じゃあねシズちゃん、この借りは今度倍にして返して貰うからね」

「…かえる、のか?」

「今日はね、また君が元気な時に今日の借りを返して貰いにいくから」

「やだ」

「…え?」

「かえん…ない…で…」


酔ってとろとろな目で、寂しそうな表情に舌っ足らずな口調でその台詞はどう考えても反則以外の何物でもない。

何て言うんだっけ、こういうのって。思い出せないけどまぁいっか。据え膳食わねばなんとやらって言うし、散々我慢してたのに煽ったのはシズちゃん、君の方なんだからね。



















おくりおおかみ
(いただきます)