・11/28にペーパーできなかったのでエアペーパー的なものです





俺たちの八年間というのは友達関係なんて一般的な関係ではなくて、食うか食われるか。生きるか死ぬかのサバイバルのような関係だった。
俺の高校時代はこいつによって潰され、平穏な日常からはかけ離れた生活へと突き飛ばされたような物だ。勿論、怒りを抑えきれない自分にも非はあるのだが、それ以上にこいつ……、折原臨也の陰謀であったと言っても過言ではない。

つまり俺たちは殺し合う事が定着していて、一種のアイデンティティのような物だ。それなのに、今更何を言い出すのか、この男は。



「だから、謝罪する。ごめんねシズちゃん」
「……」
「ずっと意地悪してたのはシズちゃんの気を引きたかったからなんだ」



情報過多、整理が追いつかない。
例えば鈍器で殴られたとしても、こんなに頭がぐらぐらとする事はないだろう。こいつは、たった一言だけでお互いのアイデンティティを簡単に崩壊させたのだ。



「本当はずっと好きだった。シズちゃんの事、人間の愛とはまた違うんだよ。シズちゃんだから、シズちゃんが好きなんだ」



目は真剣そのもので、声にも余裕がない。懺悔を乞うような、縋りつくような臨也に、これがもし演技なら、なんて野暮な考えは一気に吹き飛んだ。こんな折原臨也を俺は知らないからだ。
そう思えば一気に怖くなった。長期間の戦争状態に、育った気持ちは愛や恋だなんて綺麗なものからは程遠い、もっとドロドロとしてすっかり歪んでしまっていたからだ。



「こんな形でしか愛せなくてごめんね、ごめんねシズちゃん。シズちゃん」



臨也の頬を涙が伝うのを見て、どうしようもない感覚に陥る。この足元からガラガラと崩壊していくのは俺の、"平和島静雄"の一部なんだ。そしてそれは俺を構成する中で既に臨也という存在は大きな役割を占めているという事実を突き付けられているような気がした。
愛や恋だなんて分からない。分からないから憧れた。だが同時にこんな化物を愛してくれる奇特な人間は居るわけないと諦めていたから、知っていたから。だからこそそれは綺麗な物だと信じていたのに。



「シズちゃんを化物に、喧嘩人形になるように仕向けたのはシズちゃんを誰にも渡したくなかったから」
「……」
「誰にも、渡したくないんだ」



ぎゅ、と抱き締められると身体が強張る。こんな臨也は知らない。こんな俺は知らない。夢を見ているんだろうか、俺は。
ゆっくりと距離が縮まり、唇同士が触れた瞬間、色んな感情が溢れ出していた。俺の力なら本気を出せばこんなノミ蟲殺さないにしても重症を負わせられる筈なのに、それが実現に至らなかったのは一概に臨也の回避能力云々の問題ではないかもしれない。

だって、俺は今、驚くほどこんなにも穏やかな気持ちで居られるだなんて。



「シズちゃん、大好きだよ」
「……れ…も…」
「?」
「すき……だ」
「……っ、シズちゃん、シズちゃんシズちゃんシズちゃん、大好き、愛してるよ」



二回目のキスは噛み付くような、食らい付くようなキスで、俺はそれを抵抗する事なく甘受した。
きっと、何かが壊れてしまったから。










崩壊アイデンティティ
(そして生まれる感情)