・ブルーな臨静(雰囲気自衛官)
・詰め込み過ぎで話が超展開





前任はジャックナイフが得意で、俺は一度だけそのフライトを見たことがある。
大空を華麗に游ぐその姿は、まさにイルカそのもので感動した。あんな風に空を飛ぶことが出来るんだと、俺もあんな風に飛びたいって素直に憧れた。
ブルーを志願した事は自分でも吃驚する変化だった。周囲は自分以上にざわついていたが、そんな事も全く気にならない。彼のフライトを見て、空がとても広大なキャンバスに見えたし、実際に飛んでみるとその雄大な眺めに虜になった。似合わないが全てが繋がる空へ恋焦がれるようになったのだ。



――…あと紹介しておくな、静雄!おい!静雄!!

――るせぇな…、言われなくても分かってる。………平和島静雄。お前の機体整備担当だ


金髪に長身、だが同い年くらいだろうか。それまでも機体を弄っていたからか、作業着だけでなく身体中に砂埃を被っている。かけられたゴーグルの奥には冷たい。



――俺は折原臨也、よろしく

――……………あんまり調子乗ってると、いつかそれが死に繋がるからな



それだけ。不貞腐れたように言葉を溢すとすぐに踵を返して機体の整備に戻ってしまう。職人気質な人間が多いとは聞いていたけどさすがに無愛想過ぎる。



――おいっ、静雄!……あのバカ…悪いな、気にしないでやってくれ?あいつ口下手っていうかさ……



平和島静雄?か、あんな奴に俺の命を預ける機体を触らせるなんて、考えただけで吐き気がしますね。そう笑えば目の前の男は思いっきり溜め息をついた。


出会いが最悪ならばそれ以降も最悪で、俺と彼は会えば常に悪態を着く。それでも空への気持ちは通じるものがあって、少しづつ、喧嘩をしながら距離を縮めていったような気がした。シズちゃんはあんな図体で甘いものが好きだったり、意外と優しく温厚だったり、何より機体には当然だが空に詳しい。整備士には元々パイロットを目指すうちに機体に熱を上げていった整備士も居ると聞いたから、きっとシズちゃんはそういった人間だったんだろうか。確認する程の事ではないから勝手に自己完結をした。


季節は巡って配属されて二回目の春を迎える頃に、それは起きた。訓練時に事故がないなんて事はありえない、だからこそ常に万全の状態で挑んではいるものの、万に一が起こらない訳ではない。
墜ちたあの揺れる機体、慣れた相棒とも言える機体が知らないモノみたいで、どうすればいいか分からなかった。幸い命にも身体にも別状はなく、パイロットを続けられると聞いて喜びはしたが思い出すあの光景に情けなさと悔しさが込み上げて、一人病室で塞ぎ込んで居た。



「…臨也、」

「シズちゃん…また来たの?」



シズちゃんは毎日俺の様子を窺いにくる。決して乗れとは言わない、でもその目は俺を責めているようにしか見えなくて。違う、分かってる、ただ俺が臆病なだけで、またあんな事が起きたらどうしようと怯える自分が情けなくて。



「シズちゃんには分かんないよ」

「…臨、」

「シズちゃんには分かんない!整備するだけの君に実際に飛ぶ俺の気持ちなんて分かるわけないだろ!!」

「……」

「…っ」

「悪かった…」


違う、シズちゃんは悪くないんだよ。でもシズちゃんには俺のこのこびりついた不安が分かんないから。大好きで焦がれた空が恐怖に染まるくらいの不安を分からないんだから。

ごめんな、と力なく笑うシズちゃんにまた胸が締め付けられるように痛んだ。