言魂というものが存在するように、繰り返し告げられる言葉には魂が宿る。俺にとってのそれは呪詛のように繰り返された言葉だった。繰り返し、繰り返し、飽きることなく紡がれた言葉は意思を持って俺を支配していく。



「本当にシズちゃんは人間なの?」



化物、怪物。

それをわざわざ口に出すのがこのノミ蟲野郎くらいなだけだ。尤も、俺の異常な身体能力や怪力を見た人間はきっと心の奥底で思っている。要はその感想を言葉にするかしないかの違いなだけだ。
沸き上がる感情を我慢する事を止めたと同時に色んな物を諦めた。初恋の人に限らず、普通の友人と普通に暮らす学生生活や、普通の仕事に就いていつかは結婚して家庭を持つ、そんな平穏な未来も。全て高望みはしないようにと諦めた。

それでも、一つだけ、どうしても諦めきれなかった事があった。



「人間じゃねえよ」

「…、」

「俺は化物だ、………んな事、今更じゃねえか」



言葉にしてしまえば酷く簡素で、こんなもんだったのかと呆気なく感じる。どうしてこんなモノに縛られてたんだろう、俺は、何故こんなにも人間であることに囚われていたのだろうか。自嘲気味に笑いながらぼんやりと対峙する相手をみて驚いた、目の前の男が、頬を濡らして居たから。



「……何でお前が、」

「……………て…っ」

「あ?」

「どうしてシズちゃんはそんな簡単に手放すんだよ!」



分からない、と喚く臨也にジリジリと胸の奥が焼かれるように痛む。人の気も知らねえでふざけんな、簡単に手放すわけねえだろ。簡単なんかじゃねえ、十数年も情けなくしがみついて居たんだ。俺が諦めたモノは全て、人との関わりに生まれる愛とかそういうもので、愛される資格なんてないからと諦めたけど、それでも、本当は、本当は。



「…もう、疲れたんだよ」



終わりの見えない殺し合いも、奇異や畏怖の目も、全部疲れた。愛される資格はなくても人間であればいつか、万に一つ、それ以上の確率で俺を愛してくれる奇特な人が現れるかもしれないなんて……馬鹿げた幻想。
いっそ消えてしまいたいけれどこの身体じゃ死ぬことも出来ない。なぁ、臨也。



「シズ、ちゃん」

「全部疲れた。もう終わりにしたいんだ。臨也、なぁ、臨也」










どうか、お願いだから
(俺を殺してくれよ)