・捏造来神時代





寒さが和らいで卒業も間近に控えた放課後の教室に、それは居た。

窓際の席の一番後ろ、机の上に座る彼に行儀悪いなぁ、と笑うとうるせぇ、とそっぽを向いてしまった。
そういえばシズちゃんがネクタイ結んでるの見たことないなぁ、と指摘すれば別に結べなくないけど首が苦しいのは嫌なんだ。とぐちゃぐちゃになったネクタイを後ろ手に隠しながら不機嫌そうにこちらを睨んで来る。
だから俺は、純粋な善意と興味で手を差し伸べてあげようと思ったんだ。



「…………おい」

「なーに?」

「何か……違くねえか」

「仕方ないでしょ。俺だって人のネクタイ結べないんだもん、それよりちゃんと手元見ててよね」

「……う」



机の上に胡座をかいて座るシズちゃんの後ろからネクタイを結んでいく。端から見たら、俺がシズちゃんを抱き締めているみたいにも見える。普段は身長差から見下ろす事なんてないけど、こうやって何度も染めているのに案外傷んでいなくてふわふわした髪の毛や、いつもじゃ有り得ないシズちゃんの上目遣いを見ていると、何と言うか。
肩に顔を乗せて喋るとシズちゃんはあ、とかうう、とか意味のない言葉を漏らす。



「ちゃんと見てなきゃ覚えないよ?」

「……るせぇ」



何だか大人しくなったシズちゃんにつまらないなぁ、と思いながら、白い陶器みたいな肌を見詰める。何でこれにナイフが刺さらないんだろう、何でだろう。
考えていたら首筋に噛み付くように痕を残していた。白く滑らかな肌に残る赤い鬱血、首輪みたいだな、とぼんやり考えた。



「………っ?!」

「それ、隠したかったらちゃんとネクタイしめなよ?じゃあね」



先手必勝。
固まるシズちゃんが動き出す前に俺は走って逃げた。取り残されたシズちゃんが、どうしてるかも知らないで。



「……………あのバカ…っ、…」













春はすぐ傍に
(自覚と目覚め)