・ついったーのbotから妄想
・主人な臨也さんと執事な静雄、セキュリティプログラムなサイケくんと津軽さん





この家のセキュリティプログラムとして俺は生まれた。この家の主であるマスターによって産み出された俺は、この広い広い屋敷を守っている。守るといっても物理的にではなくて、警備やサイバーテロへの対抗などが主な仕事だ。産み出されてから数年でわかった事は、どうやらマスターには敵が多いらしい。俺のオリジナルである執事曰く、「当然の報い」らしいが、俺にはよく分からない。

いつものように仕事をしているとプログラムの残骸のようなものを見つけた。有害なプログラムではなさそうだし、そもそもプログラムとしてあまりにも不完全だ。



「マスター、これは?」

「ん?それはもうゴミだよ」



どうやらマスターは新しいセキュリティソフトを作ろうと思って、飽きたようだった。若しくは時間がなくて完成できなかったか…。この人はこう見えて意外と多忙な方だから後者が妥当だろう。
ゴミでもいいから、これを完成させたいとデータを譲り受けた。さすがにマスターの作ったプログラムを仕上げるのは、難しく、思った以上に時間がかかった。
彼が起きたら何を話そうか、彼はどんな声で喋るのだろうか、どんな風に笑うんだろうか。恋い焦がれる少女のように、まだ見ぬ新しいプログラムへの想いを募らせていった。


そして瞳が開かれる、薄いピンクの双眼が、俺を見つめてくる。やっと、会えた。



「会いたかった、サイケ」

「…サイケ、おれの、名前…」



俺は君に会うのをずっと待って居たんだよ。じわりとないはずの胸の奥が暖かくなるのを感じて、新しいプログラム……サイケを抱き締めた。






俺に何か不具合が出たら俺を壊してくれ、これはサイケにしか出来ない事だから

いつからか繰り返し言い聞かせられるようになったこの言葉の意味を俺は理解する事が出来なかった。津軽に不備が出るなんて有り得ない、俺が津軽を壊すだなんて、有り得ないと。
だからあの時俺はこの家を捨ててしまいたいとさえも思った。逃げ出してしまいたい、津軽を壊してしまうくらいなら、俺は、俺は……………。




「もういいんじゃないか?サイケは充分頑張ったと思うぞ」

「申し訳ありません。もう少しだけ、俺の我が儘を聞いていただけないでしょうか」

「………あまり無理はするなよ?」



津軽に良く似た執事は困ったように苦笑する。いや、逆だ。彼がオリジナルで、津軽は彼を元に作られたプログラムだったから。
仕事に負担があるなら新しいセキュリティソフトを導入しようと提案してくれたが、気持ちだけ受け取る事にした。別に津軽がいないと仕事に負担がある訳じゃない。けれど、あるはずもない俺の心に負担がかかるんだ。子供扱いをして撫でられる手の感触を、まだ忘れられない。

津軽が、津軽じゃなきゃ意味がないんだ。心配してくれているマスター達には申し訳ないけれど、これはただの俺の自己満足に過ぎないから。

あの時自分で壊した津軽のデータを一つ一つ拾い集めていく。津軽も、こうやって俺を作ってくれた。優しい笑顔と嬉しそうな声で抱き締めてくれた津軽を今でも昨日の事のように鮮明に覚えてる。メモリーとしてではなくて、それはきっと。


「…………………」


何度目かの起動を終わらせる。今日も津軽は起動されなかった。必要なデータは全て復旧したハズなのに、明日は別な方法を試してみようか。
早く会いたい、会えたら何を話そう、津軽、津軽、津軽に、会いたい。

コードを抜こうとすると起動音と共に蒼の瞳が開いていく。それは、あの日俺が初めて出会った優しい笑顔と全く一緒な、津軽の表情。




「………っ」

「ありがとう、俺を見捨てないでくれて」

「…っ、…つがる…!津軽!」



涙が流れない代わりにボロボロと気持ちが弾ける。何を言ってるんだ、最初に俺を見捨てないでくれたのは津軽だったじゃないか。ゴミ同然な俺のデータを、俺を形成してくれたのは津軽なんだよ。
津軽、津軽、ねぇ。



「会いたかった、津軽」



言いながら目の前の津軽を抱き締めればじわりと、暖かい滴が頬を伝った気がした。










電子人形の涙
(目には見えない)