・ついったーから妄想
・主人な臨也さんと執事静雄






「現時点で君は解雇だよ」



自分でも驚くくらいに冷静に言葉が出たと思う。これでも仕事柄ポーカーフェイスは得意な方だ。現に目の前の燕尾服をきっちりと着た男は突然の俺の言葉にぱちぱちと目を丸くして困惑しているみたいで、あぁ、やっぱり可愛いなぁ。



「………一応お伺い致しますが、解雇に当たる理由は?」

「俺が気に入らないから、以上」



俺とこの目の前の男、シズちゃんは幼なじみだ。生まれた時から折原グループの跡継ぎとして育った俺にとって、長年の付き合いになる友達で、親友で、片恋の相手だ。
シズちゃんの仕事に不備はない。初めの頃は散々だったけれど、今は完璧といって良いくらいで、他人を自分のテリトリーに入れることを嫌がる俺が唯一プライベートルームに足を踏み入れる事を許しているのも、シズちゃんだけだ。

でも俺は、シズちゃんとこんな形で一緒に居たかった訳じゃない。元々シズちゃんは口が悪いのに、こうやって他人行儀な敬語を使われるのだって本当は嫌でしょうがない。



「…契約違反には違約金が発生するぞ」

「ならそれで借金でも何でも返せばいいじゃん」



シズちゃんがうちの執事として働いてるのには理由がある。簡潔に言えば洒落にならないくらい巨額な借金を返済する為だ。


俺と結婚するか、うちで働いて返済するか。
俺にとっては一生一代のプロポーズみたいなものだったのに、それにも気づいてくれなかったシズちゃんに憤りを感じなかった訳じゃないけど、そんなシズちゃんだから俺は好きになったんだと思う。
きっと、シズちゃんは俺の事を幼なじみとしか見ていないんだろう。昔はそれが凄く嬉しかった。折原家の長男ではなくてただの折原臨也として見てくれていた事が嬉しくて、救われたのに、今ではこんなに辛いだなんて。



「…………分かった」

「……」

「……違約金は冗談だ。給料だけ貰えればそれで十分だから」



どうしてシズちゃんは、俺を頼ってくれないんだろう。借金を背負った時だって、俺には何一つ相談してくれなかった。シズちゃんが言えばそんな金くらい、ドブ川に撒き散らしても惜しくないのに。シズちゃんに比べたら、あんな紙切れなんて、要らないのに。
どうして、どうして……ねぇ。



「俺はそんなに頼りない?」

「………は?」

「シズちゃんにとって、…俺は、そんなに頼りないの?」



じわりと目頭が熱を持つ。…嫌だ、こんな情けない所を見られたくない。でも俺は、シズちゃんにとって頼れる存在でありたかったんだよ。幼なじみでもいいから、頼って欲しかったんだ、なのにどうしてシズちゃんは。



「……逆だろバカ…、……お前は何でも出来るから、頼れねえんだよ」

「…意味分かんない」

「それにあれだ、我が儘な主人の相手も案外楽しかったからな」



へらりと笑うシズちゃんに一気に涙腺が崩壊してしまったようで、涙が止まらなくなった。シズちゃんは一瞬驚いたけれど、泣き虫なのは変わらねえな、と笑いながら頭を撫でる。子供扱いされるのは大嫌いだけど、シズちゃんの手は払えなくて、あぁ、やっぱり俺はシズちゃんが大好きなんだ。



「………解雇は見直してあげるよ」

「そりゃどーも」

「でもね、ひとつだけ条件があるんだ」



俺の頭を撫でる手を掴み、バランスを崩したシズちゃんを支えて、そのまま柔らかな唇に触れた。
ねぇ、シズちゃん、覚悟しててね。いつか君に本当に、プロポーズするまで、それまでは。











今はまだ遠い未来の約束
(二人きりの時は敬語禁止だよ)