「星が見たい」



何だかんだで人生の半分近く付き合いがあるけれど、俺は目の前で紫煙を揺らす金髪の青年―…、シズちゃんの行動や言動が未だに読めない。
いつだって彼は突然だから。



「池袋でも見れるじゃん」

「サンシャインの上は嫌だ」



本物が見てえんだよ。と呟いた声はあまりに小さくて、辛うじて聞き取れるくらいだった。
突然の事に驚きはしたけど、シズちゃんが突然なのはいつもの事だし幸いにも俺は仕事が片付いているしシズちゃんも非番。この天気だから郊外まで車を走らせればきっと見えるだろう。
どうやら彼は田舎暮らしに憧れを抱いている。それが池袋という都会で生まれて育ったからだろうかは分からないけど。



「無理なのは分かってる」

「いいよ」

「え?」

「行こうよ」




ただ俺だって男だから、好きな子を少しでも喜ばせたいとか、それくらいは思ったりもするんだ。





これといって普通の、年相応なよくある「今時の若者」のような私服を着て助手席に座るシズちゃんを見てると、見慣れたバーテン服でないだけでここまで人は変わるのか。とズレた事を思う。

しばらく車を走らせて、休憩がてらにサービスエリアに入る。夜中のサービスエリアは昼間の賑わいが嘘のように閑散として、普段は気にも留めないような自動販売機の光がやけに明るく感じる。
シズちゃんが缶コーヒーを買いに車から出ていく。そこで異変に気付いた。



「……うわ…最悪…」



バッテリーのトラブルなんだろうか。普段は車なんて扱わないから勝手がいまいち分からない。こればっかりは仕方ないけれど新羅に連絡してセルティを呼ぶしかないかな…。
コーヒーを持って車に乗り込んで来たシズちゃんは何も知らないけど、伝えればがっかりするだろうか。罪悪感で少し胸が痛んだ。



「ごめん、シズちゃん」

「何が?」

「車が動かなくなっちゃったから…星はまた今度にしよう」



ごめんね、と繰り返すとシズちゃんは目を丸くしたがすぐに大丈夫だと得意気に笑った。
何だろう、まさか自分が車を押すとか言うんじゃないだろうな。シズちゃんなら言いかねないし実際にそれが出来てしまうから恐ろしい。彼の行動は本当に読めないから。




「ちょっと待ってろ」




事態が今ひとつ飲み込めない俺とは対象的にどこか嬉しそうなシズちゃんがサンルーフを開けると、散りばめられたキラキラ瞬く光の粒。月の光と星の粒で薄暗い車内に灯りが降りてくる。



「…う、わ……」

「な?大丈夫だったろ?」



外に出たときに気付いたんだ、お前は気づいてなかったからな。と子供みたいに笑うシズちゃんに、俺は一生敵わないんだなと実感する。
空一面の光の粒と隣に居る無邪気な笑顔にじわりとむず痒くて暖かい何かが滲む、あぁ、これが愛なのかな。やけに擽ったい。


行動や言動を読み取ったり、全てを分かることが出来なくても、少しでも二人で何かを共有出来ればいい。そんな柄にもない事を考えながらそっと手を重ねて絡めた。










指先から、君へ
(届け伝われこの気持ち)