・捏造来神
・某広告バナーから妄想





平穏な場所が欲しかった。
入学早々に糞ノミ蟲に会って、挙げ句トラックに轢かれ、それでも次の日には普通に登校してきた俺を誰もが化物と怯えた。
それで困ることはないし、むしろ好都合だった。どうせ離れてしまう繋がりなんていらない。"俺"を知れば、みんな離れて行くんだから、小さな繋がりによる無駄な期待なんて後が辛いだけだと分っていたから。

小学校が同じだった新羅は俺が言うのも何だが変なヤツだ。確か親父さんが医者で、昔から解剖させてくれと言われている。勿論拳で断っているが。


そして門田京平、も変なヤツだと思う。
俺の力の事や素行を知ってて声をかけてきた。怖がる事もなく、かといって物珍しい物をみる訳でもなく、普通の友人として声をかけてきたのだ。

京平は委員でもないのに昼休みにはいつも図書室に居る。ジャンルは問わずに本が好きなんだと言っていた。京平の隣で何をするわけでもなく、時折ポツリポツリと会話をするのが凄く居心地が良くて。



「京平」

「あぁ、静雄か」



平穏な場所が欲しかった。
ノミ蟲にも、下らねえ因縁つけてくるヤツらにも干渉されずに過ごせる平穏な場所。
見つける事が出来たんじゃないかと内心で喜んだ。京平の居る図書室は、俺にとっての平穏な場所だなんて本気で思っていた。








そんな場所、俺には一生無縁なものなのだと痛いくらいに気付かされたのは直ぐだった。

いつものように、下らねえ因縁だか何かでの呼び出し。俺の怪力や性格を知っててキレさせるなら、1mmも我慢せずにボコボコにする。そう思いながら殆ど聞き流して居る話の中で不意に耳に入った言葉に、俺は目を見開いた。



「図書室のオトモダチがどうなってもいいなら分かるよなぁ」

「…!」



コイツらは京平の事を知っている。
俺は、また、自分のせいで大切な人を傷付けるんだろうか。また、俺のせいで。

だから繋がりなんていらなかったんだ。誰かを傷付けるくらいなら一人で生きていけると思ったのに。いらないと捨てた筈の物を、今更になって、なくしたくないって思う俺は何て愚かなんだろう。





「は…っ、ガッ、ぐぁっ!」

「最強とは言え平和島静雄も人間だったわけだ!」

「優しくて涙が出ちゃうってな!」




汚い床、汚い笑い声。

ああ、でもこんなヤツらの言葉なのに、人間だって言われて喜んでいる俺が居るんだ。…そんな俺が、一番汚いじゃねえか。

痛みに強い身体とはいえ散々殴られれば出血もする。貧血まではいかないがそろそろヤバいのかもしれない。
連続して来ていた痛みがやって来ない事に違和感を覚えて見上げれば。黒髪に学生服…に何故か狐面を着けた男。



「…は?」



彼はあっと言う間にその場に居た全員を薙ぎ倒して行く。狐の面を着けていても分かる。あいつの喧嘩を見たことはないけど分かる。あいつは――…、




「京平…?」


「……遅くなって悪い、静雄」



身長差がそこまでないのにも関わらず京平は俺を軽々と持ち上げる。正直この歳になっておんぶされるだなんて思わなかった。外に出れば周りの目が恥ずかしくなって背中に顔を埋めて隠そうと試みたが、それが一層羞恥心の増す行動だと自覚してやめた。

京平は俺を背中に乗せながらポツポツと話をした。先輩が自分の事を盾に俺を絞める計画を立ててた事を噂に聞いた事。どうにか止めようとしても間に合わなかったと謝られると、罪悪感が増す。悪いのは俺なのに。
あの狐の面はどうやら変装だったらしい。友人に助言をされたらしいがどう考えても逆効果だろうと思ったが、本人も薄々感じてたらしくあまりに言葉を濁すから、言及しない事にした。


京平はどうして俺を助けたんだろうか。それは分からないけど、もう俺なんかと居たらダメだ。今度は本当に京平が傷付くかもしれない。それは、絶対に嫌だ。
頭では分かって居るのに心がごねるんだよ。捨てたくない、なくしたくないって。



「静雄…?大丈夫か、傷に響くか?」

「いや、そうじゃなくって…喧嘩、強かったんだな」

「あぁ、喧嘩はしないに越した事はねーけどな…ただ」

「…?」



「大切なヤツを傷つけられて黙ってられる程、腑抜けちゃいねえからな」




京平、お前はこんな俺を、大切だなんて思ってくれてるのか?
俺は、お前の事を大切だって思ってるんだよ。自惚れても、いいのか?

情けなく震える声で伝えれば、後ろからも分かるくらい耳まで真っ赤にするから。それがどうしようもなく嬉しくて、じわりと滲むように暖まる気持ちに小さく笑った。



なぁ京平。お前の隣なら、どこでも平穏な場所になれるんじゃないかって思うんだ。
そんなお前に見合うような人間になれるように俺も頑張るから、だから。










緩やかに動き始める
(側に居てもいいか?)