・ついった派生のきゅうきゅい
・ちったいのと臨静が存在なカオス
シズちゃんと喧嘩した。
会えば血みどろの殺し合いをしていたあの頃とは違う、些細な喧嘩で、内容なんて覚えていないし、あるようでないに等しいものだった。
殴り合いでは勝てないけれど頭は回るし語彙も俺の方がある。売り言葉に買い言葉が積み重なって、最終的にはシズちゃんがキレて出ていった。
物が壊れなかっただけマシなのかもしれないけれど、なら殴ってくれた方がまだ良かった。別に俺がマゾだとかじゃなくて、部屋を出ていく前に一瞬見えた表情に、追いかけられなかった自分に、酷く後悔した。
「………ないてたぞ」
「あぁ、見てたのか…」
シズちゃんによく似た格好をして、よく似た声の小さな彼を見れば、一気に罪悪感が押し寄せる。本当に何してんだろ、俺は。泣くとは思わなかったなんて小学生みたいな言い訳は使いたくないけれど、でも。
口封じと言う訳じゃないけどプリンを渡せば、大人しく食べながら俺の気も知らないからか夕飯についても言及してくる。
「サイモンのすしがたべたい」
「…はいはい分かったよ、…あれ?あいつは?」
「…………しらない」
あいつが寝てるなら寿司は持ち帰りにしなくちゃいけないな、とか、シズちゃんに会いたいけどまだちょっと会いたくないな、とか色々と考える事はあったけど、鳴る期待のない携帯と財布だけを持って出かける事にした。
臨也と喧嘩した。
口喧嘩で俺があいつに勝てるわけがなくて、結局俺がキレて部屋を飛び出した。そもそもの発端なんて覚えていない。どうしようもない事から始まったような気がするけど、相手が臨也となると、素直に謝るなんて出来ない。
イライラをぶつけるように早足で池袋まで戻ってきた。逃げた自分に対する不甲斐なさとか、いろんなものをぶつけるために。
「きゅ…っ、シズちゃん、あるくのはやいっ!ようっ!」
「?!」
吃驚して振り返ると、俺の肩の上には今まさに喧嘩して逃げるように出てきた部屋の持ち主に姿も声もそっくりな、サイズだけ小さくしただけのヤツがしがみついていた。
「お前!何で着いてきたんだよ!危ねえじゃねえか!」
「きゅうっ!だって、だってさ、シズちゃん…、おうちでてくとき」
泣きそうだったから、と寂しそうに言われれば、それこそ本当に泣きたくなった。
どうしてあいつじゃなくて、同じ顔した違うヤツに言われなきゃいけないんだよ、どうしてあいつじゃないんだよ。
どうして、俺は。
「でもね!ひさしぶりのいけぶくろだから、サイモンのおすしたべたいな!」
「…シェーキ買ってやるから我慢しろ」
「はやくはやく!大トロ!」
これは一応臨也に連絡しなきゃいけねえのか?いくらあいつでもいきなり居なくなったら心配くらいはするだろう、とか同じ容姿でも俺たちとこいつらじゃ全然違うよなとか、色々考える人の気も知らねえで肩から降りて勝手にぱたぱたと走って行く。
あぁ、こいつの人の話を聞かない所は本当に臨也の野郎にそっくりだ!だから危ないって言ってんだろ…っ!
追いかける事に夢中になってた俺は、人が近付いてる事には全く気付かなくて、気付いた時には既に衝突してしまった。
「うわっ、すみませ…っ」
「シズ、ちゃん…」
俺にぶつかられれば誰もが骨の一本や二本じゃ済まないと怯えるが、ぶつかった黒コートの男を見る前に、そのふざけた呼び方に俺は顔を上げずに走り出そうとしていた。
「ちょっ!逃げないでよ!!」
「うるせぇっ!逃げてねぇよ!」
反射的に走り出そうとした俺の腕を捕まれた。痛い。痛くないけど、痛い。離せよ。言いたいことはたくさんあるのに、俺はこいつみたいに口が達者なわけじゃないから言葉にならなくて。
…なんだよ、俺に謝れって言うのかよ。確かにあの場から逃げたのは俺だし、その意味じゃあ負けかもしれないけど、でも。
「ごめん、ごめんね…シズちゃん」
「………え」
「俺はシズちゃんの事、傷つけた」
「臨也…?」
泣かせてごめんね、と弱々しい声で言われれば、堪えてなかった筈なのに優しく触れる体温に視界がじわりと滲んで。
頭を預けた肩口から、フードの中から俺たちと同じ顔した小さいのが二人嬉しそうにこっちを見ていて、何だかおかしくなって小さく笑った。
救済は天使の愛で
(小さなキューピッド!)
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