最後に自分の夢を誇らしく語ったのはいつだったろう。
無くしてしまったり、諦めたりして、隠してしまった。

そうしてく中で俺は夢を見ることをやめたんだ。





「…だから、代名詞がこれだろ?」

「……?おぉ、…代、名詞」

「分かってねぇ顔だな」



シズちゃん、平和島静雄は変な子だ。
うちの学校の天文部は基本的には適当に集まってぐだぐだして、文化祭の時だけ全員参加で簡単な発表があるくらいで、正直楽だからという理由で入った人間が多い。実際に俺も幽霊部員になるつもりで入ったから。



「二人とも休憩したら?休憩を挟まないと脳はしっかり働かないよ」

「んー…っ、そうだな」

「…これだけ、終わらせる」



新入部員顔合わせの時に、シズちゃんは宇宙飛行士になりたい、と恥ずかしげもなく言い切った。
「何となく」その場に居た大半の人間の中で彼は違っていた。


………あまり頭は良くないけど。
金髪の長身、とまぁハーフかヤンキーを思わせるような見た目に比べてシズちゃんは英語がまるでダメだ。それはもう可哀想なくらい、中学からやり直した方が良いレベルなくらいにダメだ。
今だって補修対策にドタチンに勉強を見てもらっている。


世話焼きなドタチンや幼馴染みの新羅には犬みたいに懐いてて、しょっちゅうシズちゃんを揶揄って遊ぶ俺に対しては野良猫みたいに警戒されてる。



「早く終わらせないとシズちゃんの分のプリンも俺が食べちゃうからね」

「っ!それはダメだ!」

「じゃあ頑張って終わらせなよー?」


にやにやと我ながら嫌な笑い方をすれば恨めしそうに睨んで来るシズちゃんは、待てを強要された犬みたいで見てて面白い。人の分まで食べる気はなかったけどシズちゃんのやる気は上がったらしい。真面目に机に向き合う姿を見ると何だか可笑しくなってくる。笑ったらきっと怒るだろうからやめとこうかな。




シズちゃんは変な子だと思う。
見た目と中身がちぐはぐで、英語が壊滅的に出来なくて、甘いものが好きで、真面目で努力家で、底が見えないくらいに豊富な天文学の知識を持っていて、空に憧れ続けている変な子だ。


でも何より一番変なのは、幽霊部員で済ませようと思っていた部活に毎日顔を出している俺自身なのかもしれない。









名前もない感覚
(不思議な感覚)