一発殴るか、蹴るか。
そんな事を考えながら新宿にわざわざ出向いた。しかしそれはすぐに「行くべきでなかった」と後悔に変わる。
殴るべき相手、臨也が苛々を隠さずに黙々とキーボードを叩いて居たから。



「…何、シズちゃん…何か用?」

「……………あ」

「用ないなら帰って、忙しいから」



冷たく、俺を突き放す臨也は録に睡眠も取れていないのか、眼鏡の下に疲労の跡がうっすらと見える。
一方的な会話終了、と共にまたパソコン画面の向こうへ意識を飛ばす臨也に俺は返す言葉も見付からず、居たたまれないこの空間を抜け出す事しか選択肢はなかった。

秘書の女性が少しだけ心配そうに出ていく俺を見ているが、すぐに臨也の声がかかって仕事に戻る。あの人にまで気を使わせるだなんて、物凄く情けない。



仕方ないじゃねえか、忙しいなら。
このご時世に仕事があると言うのは良いことだ、…まぁ堂々と出来たような仕事じゃないにしろ、昔の安いドラマのヒロインみたいに仕事か自分か、だなんて天秤にかけさせるつもりもない。



「………バカみてえだ」



寂しい、と言えない。甘えるって何だかが分からない。そもそも臨也は俺に付き合って「くれて」いるんだから、これ以上我が儘を通すことなんて出来ない。



―シズちゃんの手料理が食べたいな



もう何度目にもなるゴミ箱に押しやった食材達があまりに無惨で、あんな言葉一つで喜んだ馬鹿な俺みたいだなぁ、とぼんやり思いながら今日もまた一人の食卓についた。










冷たい晩御飯
(もったいないな)