・捏造中学時代




田中先輩は優しい。
狂犬とか何とか言われていた俺なんかの事も後輩として見てくれて、対等に扱ってくれて。大切な先輩だ。
だから田中先輩が俺を手のかかる後輩として見てくれてるんだから、俺もちゃんとその後輩の立場から送り出さなきゃいけないと思った。
予行練習には出なかった。出たらきっと、色々と溢れだしそうな気がしたから。それでも本番には笑って見送ろうって。


俺は、今、笑えているだろうか。



「田中先輩、…おめでとう、ございます」

「おう、ありがとなー、って静雄、卒業してもまだ先輩なのか?先輩じゃなくなるべ?」



冗談混じりに少しだけ揶揄うように笑いかけてくる田中先輩に俺は戸惑う。
田中先輩は俺よりも全然頭が良いから俺は、先輩を追いかける事はきっと出来ない。数年後には俺のことも中学の後輩にそんなやつ居たなぁ、ってくらいの認識になるんだろうか。いや、それとも俺の事なんて忘れてしまうんだろうか。

それは、いやだ。
たった一年間、それでも貴方と過ごした一年間は俺の中学三年間の中できっと最高の一年間だったと思えるから。



「………トム、さん」

「ははっ、お前は本当に変な所真面目だよなー」

「だ、だって…トムさんは、卒業しても、大事な先輩だから…っ」

「俺もお前はずっと大事な後輩だよ」



元気でな、と頭を撫でる田中先輩に笑って見送るハズだった俺は涙が止まらなくなった。
ごめんなさい、最後まで手のかかる後輩でごめんなさい。


俺は、きっと貴方の事が。










紙一重の恋心
(好きだったんです)