あいつは逃げ足が速い。蟲のくせに。


初対面から気に入らねえヤツだと思っていた。顔は整ってはいるが内面は理屈の塊みたいで、性格も大きく破綻している。
俺の嫌いな部類の人間だ。



「シズちゃんってば酷いよね、俺が誕生日だからお祝いにシズちゃんの身体をちょーだいって言っただけじゃん」

「意味分かんねぇんだよ日本語で喋れやノミ蟲が」

「えー、それが歳上に物を言う態度なの?」

「は?俺とお前は同い年だろ」



とうとう脳みそまでやられちまったのかと訝しげに睨めば態とらしく肩を竦める。何こいつすげぇうざい、殴りてえ。



「シズちゃん、誕生日まだでしょ?」

「あ?」

「だから、シズちゃんの誕生日が来るまで俺はシズちゃんよりも歳上なんだよ?」



歳上は敬うものだって前にシズちゃん言ってたよねー!とか笑い出す目の前の男が心底うざったくて、我慢できずに思いっきり殴り飛ばしてその場を後にした。

イライラする。
それじゃあ、俺はずっとあいつに追い付けなくて、追いかけ続ける事になるのかよ、ふざけんな。ありえねえ。


そんなのは御免だ。






「………痛いなあ」



プレゼントは鉄拳一発、しかも手加減なしとか酷い。でも、あの時のシズちゃんの顔は面白かった。寂しそうな悔しいような、あんな表情も出来るなんてやっぱり飽きないよなぁ。



シズちゃんはいつまでも追いかけておいで、俺はずっと逃げ切ってみせる。



そして最後は俺が捕まえてあげるよ。










終わらない追走劇
(一生追い付けない)